「クロの朝ご飯はかごの中で食べてもらいなさい。朝は忙しいから」

と母の春子さんが提案しました。

一郎や純二が朝ご飯を食べてから、クロをかごから出して、少し遊んで学校に向かいました。クロも窓からどこかへ飛んで出ていきました。また、夕方はクロも戻ってきているので、晩の食事の前に、子どもたちはクロと遊んでいました。

家族が1匹増えた状況です。クロは人間に馴れているようで、恐れません。キョロキョロと左目で見たかと思うと、右目でも見て、いつも周りを見張っています。羽根にゴミがついているので、近づいて触ろうとしますと、安全な距離を保ってピョンと跳ねて離れます。

ご飯でも、魚の煮物でも、豆でも何でも全部食べるのです。次第に慣れてきて、食べ終わると自分で勝手にかごに入ってじっとしているようになりました。

「今日はたくさん飛んだから眠たいのだよ」

と言っているようです。

カラスは頭の先から尻尾まで、全て真っ黒で黒光りがしています。純二は気持ちが悪い印象を持っていました。ところがクロを近くで毎日見ていると、何も言わないし、表情も分からないのに、かわいく思えてきました。目を見ていると何か話しかけてきているように思えたのです。

学校から帰ると、クロと遊ぶのが楽しみになりました。それまで、大学の体育館に通って、運動部の練習を見たり、グランドでサッカーやラグビーの練習を見たりしていたのをやめていました。

戦後の日本は食料難が続きました。大学会館の住人たちは大学職員です。大学の事務にかけ合って、運動場の隅のススキが生い茂っているところを貸してもらえることになりました。和夫さんは大学会館の垣の直ぐ南側の近いところを使わせてもらうことになったのです。

しかし、ススキの根は深くて頑丈です。ツルハシを使って、1株ずつ掘り起こしていきました。まさに開墾です。春子さんは草を取って耕しました。日曜日ごとの仕事で、何日もかかって1アールほどの畑ができました。前から畑で野菜を作っていた用務員の田中さんがサツマイモの苗を少し分けてくれました。

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