(二) 娘とホテルの下見に
許可が下りてから準備にかかっては間に合いません。日本ALS協会広島県支部の先輩のみなさんの外出経験談を伺ったり、訪問看護師、ヘルパーさんたちの中で乗り物で利用者さんと遠出をした経験をお持ちの方にその様子を伺ったりと、情報蒐集を一所懸命にいたしました。
また、娘と二人で『原辰徳監督を囲む会』の開かれる広島駅前の会場に、担当の方のお話を伺いに出かけました。
この時お忙しい中、東海大学同窓会の副会長氏も同道してくださいました。
県都広島だけあって周りの交通量も多く、この交通混雑の中をいくら近いとはいえ駅から介護タクシーでホテルまで進むのはかなりしんどいことになるのではと少し不安を抱きました。しかし、夫のあのうれしそうな顔がちらりと頭を掠め、弱気の自分を反省致しました。
ホテルは駅からすぐ近くでした。リーガロイヤルホテルです。ちょうどその日はお日柄が良かったらしく、数組の結婚式が行われている様子でした。おめかしをした若者をあちこちでお見かけしました。
この若者たちの人生の門出に、私たち一行のような、呼吸器を携え、酸素ボンベを携帯した異様な出立ちの一行が目に入っては、その喜びの雰囲気に水を差すようなことになりはしないかと、ここでまた私の弱気の虫が登場となってしまいました。
でもこれは夫にとって重大な思い出の行事となることなので、思い切り目を瞑りました。ホテルの営業部長氏とお会いして、事の次第を縷々お話申し上げました。
結婚式シーズンでもあり、お断りされても仕方ないと私は腹を括っておりました。ところが氏はご快諾くださいました。
無理なお願いを承知の上でのことなので、もしこれがダメならせっかく楽しみにしているのに可愛そうでも止めるしかありませんでした。
この快諾の報告をどんなにか喜ぶであろうと思うと、この場で今すぐにこの吉報を伝えたい衝動に駆られました。
ここまで来ると、待機、休憩所の手配です。こちらは一行十人前後。そして人工呼吸器二台、吸入用の酸素ボンベ、点滴台、吸引器二台(一台はもしものときに備えてのスペア)、ギャッチアップ式ベッドなどとそれぞれに付随した諸々の小物があるので、少し広い部屋をお借りしたいと申し出ました。
営業部長氏がご案内下さった所は、わが家の療養室の一、五倍ほどの大きさでした。これだけあればベッドの設置もゆったりと取れ、随行のみなさまの休む場所も保てると安心いたしました。
これでほぼ段取りは出来上がりました。あとは山谷先生の許可を待つばかりです。