高校三年生の初夏だった。

英良は友人の家に遊びに行ったが、友人は外出していたため母が出てきて、英良を招き入れた。玄関を上がり居間まで通された後に彼女は冷たい麦茶を英良に差し出した。

彼女は水色のツーウェイギャザーワンピースを着ており、時々居間を吹き抜ける風にスカートが揺れる。彼女が居間のレースのカーテンを開けると陽光が差し込み彼女の両足の線が透けて見え惜しげもなく英良の目に晒した。

彼女は英良を息子の友人としか見ていないためか、英良の視線には全く無防備だった。英良は粘着テープコロコロでカーペットのゴミを取っている友人の母が、尻を突き出しワンピースのスカートが尻のくぼみに密着したところを目の当たりにして性的な欲求にかられた。

英良は麦茶の入ったコップを取り「頂きます」と言って一口飲むと、「どうぞ」と彼女は振り向き答えた。その時の彼女は軽く微笑み白い歯が印象的だった。英良の耳に入ってくる彼女の声は年が離れた親世代の音声にしか聞こえず、彼女も英良のことを息子の友人……子供としか見ていない。

彼女が向き直り英良の方に身を屈めてカーペットのゴミを取っている時に、彼女の胸の谷間が垣間見え白い乳房と柔らかいふくらみが躍動した。

外から車のエンジン音が聞こえる。やや遅れて荷台の引き戸の開閉音が聞こえる。近くに宅配の車が来た音だ。英良達の行動はその空間の一部として取り込まれ、流れる時間と空間の線上のとある一点にすぎなくなった。

歩道の傍らに猫が一匹佇んでいる。視線は毘沙門天に向けられているようだ。時々「にゃ~」と声を上げながら、暫くその猫は英良の後をついてきた。

冷たいビルの谷風が路上に吹き、砂埃が舞い上がり風の音を感じる。どこからか洋楽のバンドらしいBGMが聞こえてきた。

そういえばここは昔ながらの商店が建ち並ぶアーケード街であったが、十年ほど前から店の半分はシャッターが閉じられており営業はしていない。遠くから救急車のサイレン音が聞こえたが、かなり近づいてきたと思ったら、また音は遠のいていった。歩を進めていくと風に乗って炭で焼いた焼き鳥の匂いが漂ってきた。

店の換気扇から自然と出てきた煙だ。店の中からはカウンターに座っている数人の会社帰りの四十代の男性が三人談笑している。

【前回の記事を読む】敵に打ち勝つため、冥府に神器を探しに行くという毘沙門天。英良に出来ることとは