日本の中堅商社の情報システム部門でエンジニアをしている稲井仁は、初めての海外出張だった。

昼に訪問した取引先の大連駐在所長に、夕食後に日本人クラブに案内された。席に着くと薄暗い店の中でホステスと思われる女性が十人程、テーブルの前に一列に並び出した。意味も分からず眺めていると所長から横に座る好みの小姐を選択するのだと教えられた。初めての大連だったので、最初に小姐の選択を促され、一番右の当たり障りのない彼女を指差した。

日本語ができない丽萍と中国語のできない仁は、片言の英語と漢字の筆談で会話することになった。

二回目の大連訪問の土曜日の朝、宿泊先の「大連海景酒店」一階ロビーで丽萍を待っていた。木曜日の食事の後、駐在所長より「風倶楽部」で二回目の接待を受けた。入店後、直ぐに丽萍がいるか確認した。来週にも打合せが入っているので土日を挟んで滞在することになり、丽萍に大連観光の案内をお願いした。

丽萍は、ホテル近くの港湾広場で一台のタクシーを止めた。運転手と値段交渉をしているようで、なかなかタクシーに乗ることができなかった。中国語が分からないが内容は理解できた。いきなり喧嘩腰で、一日貸切りでの値段交渉を始めたようで面食らった。中国語での交渉は、延々と続いた。中国語は分からないが、あまりにも強気の丽萍を押しのけようとすると、体当たりで割込みを阻止された。

最終的に、丽萍が仁に百元(約1,600円)を要求して、その手に百元札を一枚渡すと、そのまま彼女のポケットに収まっていた。その状況を確認した運転手は運転席に戻り、二人は後部座席に座ることができた。濱海路(*)を車内観光し、森林公園に向かい、バスで動物園を周回後、大連の山間部の自然を満喫し、タクシーに戻り、星海公園(*)に向かい、大連開発区で昼食を取った。


(*)

港湾広場……遼寧省大連市港湾部の公園
163……中国国内用ポータル:網易
濱海路……遼寧省大連市南東の海沿いの観光道路
星海公園……遼寧省大連市南部、海沿いの公園