59才 失くした物と得た物
1ヵ月の入院が半月のびたが無事退院、私もそれに合せ3週間の休みをもらった。
祈願だったラーメンも早速作って食べていたし、私の作った料理を「旨っ」と以前の様にたいらげた。すっかり断酒もし、元気になっていった、と思っていた。
ダンナが1ヵ月後に還暦を迎えることもあり、こんな良いタイミングはない!と急遽、近場の温泉へ1泊旅行に出かけた。病み上がりで以前の様に元気ではないものの、美味しい料理、温泉を家族水入らずで満喫し楽しい思い出がいっぱいの旅行になった。
翌日から私は仕事に復帰。ダンナは準備した昼食を食べてはいたがベッドに横になっている事が多くなる。夜も眠れない様子だったが1日中横になってるからと不思議とも思わなかった。私も3週間ぶりの仕事で疲れもあり、それ程気にも留めずにいた。
3日程すると用意した食事にも手を付けなくなり、声かけにも「うん」としか言わない。明日具合悪かったら病院へ連れて行くからと留守を息子に頼み、久々の夜勤へ。翌朝、明けで電話を入れるが応答なし。いつも夜勤明けは体のメンテナンスのため整骨院へ寄っていたが、まっすぐ帰ることにする。
テーブルには準備した「おじや」がそのまま置いてあった。病院に行くか尋ねると「オウ」と一言。フラついて立てないダンナを支えながら準備をした。この時ばかりは、介護の仕事をしていてよかった……と思った。
やっとの事で駐車場まで行き、車に乗せ10分程の病院へ。てきぱきと車椅子に移乗、診察を待つ。主治医はあいにく休暇中で、代わりの医者の診察を受けることになるが、ダンナは病院に着いて安心したのか、よくしゃべる。
仕事に復帰して日中の様子が心配で入院させてもらいたい私は
「元気と思われるけん、あんまししゃべらんと」
と注意したくらいだった。案の定、医者は
「入院したいのー?」
と気乗りしない様子の所を、頼みこんで、どうにかOKをもらう。
「これで安心」
とダンナも私もホッとした。
病棟は前回と同じで看護師長が息子の友達の母親ということもあり
「またお世話になりまーす」
と挨拶し、入院準備のため一旦、自宅へ帰る。
入院が決まり安心し、笑顔すら浮かべて病院に戻った私に
「先生からお話があります」
と妙に真剣な表情で看護師長が言った。診察室では、さっきまで入院をしぶっていた医者の表情とは、あきらかに違う。嫌な予感がした。