第二章 招魂と入れ替わり
私は呆れ返りながらも憐れみながら説明をしてやる。
「だから、同じ事を連呼しない。タマは猫であんたに話があるんだって、驚いたと思うけど、落ち着いて聞いてみて」
落ち着き払ったタマが私にも聞こえるように話す。
「俺は入尾城主水野致高様にお仕えしていた。不思議に思うだろうが致高様とは今お前に話し掛けているようにしてお話し相手になっていた。そして致高様が亡くなられた後も人間よりも寿命が長い俺は生き続け、二百年くらい経つと記憶を留めて生まれ変わる。そんな俺を洋子がみつけ、何やら色々話してるうちに八幡社の出来る前にあった入尾城の話から致高様の御霊をお慰め申し上げたく呼び出せないかという話に至り、それでお前に来て貰った」
致嗣は身動き一つしない、あいつ本当に驚いているよ。タマをジッと見詰めていたが、急に変な言葉を言った。
「お前、蔵人(くろうど)か?」
「何、クロードって! 外人の名前」
突然致嗣が言い放つ初めて聞く言葉に不快感が起こり、難癖を付けてやる私。
片やタマは意外そうな声を発する。
「俺の名前を知っているのか?」
致嗣は静かに話し出す。
「家に伝わる古文書の中に不思議な猫の話が出て来るんだ、令外官名を名前とし蔵人と呼ぶと書かれてあったんだ。父親に聞いて古文書もジックリ見たけど詳しくはわからなかった。それであれは大袈裟に書いてあるんだと思っていた、もしくは猫のような人の話だと理解していたのに…。……本当だったんだ! 人語を操る猫、過ぎ去りし時を語る猫」
ボーッとタマに見とれる致嗣。
「タマって本に書かれるほど、そんなに有名なの」
改めて聞いてみる私。
「生命的には生まれ変わりだから違うけど、記憶は受け継がれるから単一蔵人だ」
何だか少し威張って言い切っているタマ。
興奮冷めやらぬ致嗣が……
「その蔵人が俺に話があるんだな――先祖の話も出ていたし……洋子がおかしな事を言っていた、体がいると」
不審顔の致嗣。
そんなあいつを見ながら、それにしてもまた呼び捨てだと思う私。
そしてタマは厳かな事を話すように野太い声で話し始める。
「その通り、致高様の御霊をお呼びするのにお前の体が必要だ……早い話、憑依という事だ」