憑依と言う言葉に少し引き気味な致嗣であったが考えながら話し出す。
「んぅーん、凄く、興味あるけど……体に何か差し障りは無いのか」と言い、また考え込んでいる。
私は声に出して言ってやりたい、気の小さい奴だと!
致嗣は細かいことをタマに聞き続けている。
「それと俺の意識はどうなるんだ。それからどのくらい憑依は続くんだ」
私にもタマの声は聞こえているのに、致嗣とタマはまるで二人だけのように、交互に話している。そんなのどうでもいいから、早くやろうよぉー。
「意識はある。共有するんだ。そしてご満足されるまで留まられると思うな。……どうだ、やるか!」
「じゃ日常生活は送れると言う事か。……いや、ちょっと待て。俺はもうすぐ最後のテニスの試合がある。……それが終わってからにして欲しい。この事は心惹かれるから落ち着いた気持ちになってからにして欲しい。だから、夏休みにするという事ではどうだろう。そうしてもらいたい」
自分の希望だけを優先させようとする致嗣に私は食ってかかる。
「そんなことにしたら、折角用意した物が不意になるじゃない」
ふて腐れて言い張る。
「いや、それでもいいぞ。薬は作ったし、絵図はまた描けばいい」
怒っている私とは違い、タマは事もなげに、そう言う。
「ええーっ、タマー! 私苦労して色々やったのに、それでもってとっても期待していたのにー。このままやろうよ」
懇願する私に致嗣が言う。
「洋子、お前そういうことなら前もって説明しておけよ。俺にも都合があるんだから」
「呼び捨てにすんな!!」
私は大声で怒鳴ってやる。
そんな私達の様子を見ていたタマは、
「今日のところは終わりにするか。憑依体の都合がつき、日にちが決まったら改めてやろう」
そうタマが言い終わるやいなや、致嗣がタマを甘く誘う。
「蔵人、俺のところに来てくれないか、父さんも古文書に載っている入尾城のことなど、話したいと思うんだ」