徐々に煙が晴れてくると、トビウオの飛行機の後部座席に乗ったラ・エンカの姿が現れる。羽をバタつかせその場でホバリングし、下部に付けられた機関銃がイムフラに向けられていた。

「いつの間に……？　さっきの爆音は煙幕か……」

イムフラがそう呟くと、ラムカを見付けたラ・エンカは叫んだ。

「ラムカを渡してもらおうか！」

操縦席に置かれた瓶の中でオス蜂は、メス蜂を持ったイムフラの側にいる兵士に向かい頭を向け飛んでいた。イムフラは、この不測の事態に全く動じず、笑みを作りラ・エンカに聞いた。

「ここまで入れた事は、褒めてやろう！　ところで……、ラ・エンカ殿は主の記憶はご存知ですかな？」

不意の質問にラ・エンカは戸惑った。ラ・エンカは、『主の記憶』は、持ち主以外の使用などが出来なくなる記憶術と言う事は知っていた。だが巨大な施設を丸ごと主の記憶を掛ける事など、一流の記憶使いだとしても到底無理があった。

「はったりだ！」

そう言い放つと、機関銃を辺りへ向け乱射させた。穴の中で銃声音が響くが、施設内は何も損傷はなく、まるで薄い透明なバリアでも張られているかのようだった。

「これならどうだ！」

そう言うとラ・エンカは、トビウオの口からロケットミサイルを上層へ向け発射させた。爆発が起き轟音と共に煙が辺りを包みこんだが、煙が晴れると何も変わらず、当たった壁に薄っすらと焦げ跡が付いたくらいだったので、ラ・エンカは、目を丸くする。

その直後、かなり上空で地響きのような音がし始める。イムフラは自慢げにラ・エンカに言った。

「この主の記憶で部外者の侵入があると出入り口が閉じられ、砲弾などの攻撃は効かないようにしてあるのですよ」

轟音が響く中、徐々に上空の丸く象った光が小さくなり、開閉口が閉じられようとしていた。