「以前にも、縫製工をしていたの?」
「いいえ。わたしは半年前に、黍良(きびら)から出てきたんです」
「黍良? ずいぶん遠くから来たね」
「列車で十二時間かかりました」
「家は農家なの?」
「はい」
「家族は?」
「母と妹三人です」
「お父さんは?」
「四年前に亡くなりました」
「じゃあ、家計を助けるために、豊殿(とよどの)に出稼ぎにきたのかな?」
「そうです」
もともとは、わたしの知り合いが城屋の工場で働いていたのだが、その人が結婚して辞めることになったので、わたしは仕事を譲ってもらったのだった。
西純さんは、少し口調を変えて聞いてきた。
「月給は、いくらだったの?」
「だいたい、二十万貫です」
「一日何時間ぐらい働いてたの?」
「十時間ぐらいです」
「休みは月に何日あった?」
「だいたい四日です」
「それで二十万貫? 安すぎないか」
わたしは内心むっとしたが、顔には出さなかった。
「わたしはまだ、働きはじめたばかりですから」
わたしの声に含まれるかすかな棘に気づいたのか、西純さんは、給料についてはそれ以上聞かなかった。
「治療費は、会社が出してくれてる?」
「はい」
「慰謝料はいくら出たの?」
わたしはとまどった。慰謝料? 見舞金のことだろうか。
西純さんは、わたしの顔をじっと見て言った。
「治療費だけじゃなくて、慰謝料もしっかりもらわないといけないよ。会社が提示した額の、倍は要求した方がいい。はした金で引き下がってはいけないよ。会社がきちんと対策をとっていれば、落雷であれほどの大惨事になることはなかったんだから」
……落雷を完全に防ぐ対策があるのだろうか。避雷針があれば雷の直撃は免れたかもしれないが、いつ落ちるかわからない雷のために、わざわざ避雷針を設置している会社や工場など、ほとんどないだろう。