わたしは、名刺の「蒐優」という字を指差して尋ねた。
「この字はなんて読むんですか?」
西純さんはわたしの声を聞いて、少したじろいだようだった。わたしは顔に似合わない、太い声をしている。
「……しゅうゆう。出版社なんだ。『告壇』は社会問題とか、労働者の問題なんかを扱っている新聞なんだ。
大変な目にあったよね。つらいだろうけど、でも、いろいろ話してもらえないかな。世間に、きちんと真実を伝えたいんだ」
「会社が発表してるんじゃないですか?」
「いや、僕らは会社の言うことを鵜呑みにするわけにはいかないんだ。現場にいた人の話を聞かないと」
「……」
わたしは自分の不幸をあまり他人に話したくはなかったが、週刊新聞の記者がどういう人なのか、どういうふうに取材するのかに興味を持った。
「わたしはあの工場で、縫製工として働いていました」
西純さんは、ペンとメモを取り出しながら聞いた。
「君の名前は?」
「夏峰沙茅(なつみねさち)です」
「歳は?」
「二十五です」
「いつから、あの工場で働いてたの?」
「半年前からです」
「半年前……というと、あの工場ができたばかりの頃だね」
城屋は繊維工業の会社で、紡績、染料、縫製の工場を持っていた。
わたしが働いていた工場は、縫製工場としては三番目にできたので、「縫製第三工場」という通称で呼ばれていた。
半年前にできたとはいっても、建物は以前倉庫として使っていた所を改築した、古い木造だった。
一階は事務室や応接室、食堂などがあって、二階で三十五人の女工たちが、縫製の仕事をしていた。