「あ、まあ一応、付き合っているよ」

「そうかい」

祖母はそう言ったきりもう何も聞いてはこなかった。それがかえって不気味だったが、その時はあまり深く考えてはいなかった。

上品で滑らかな口当たりの羊羹もたまにしか食べられないからこんなに美味しいのか、本当に美味しいものは毎日食べても変わらず美味しいのかそんなことを考えながら祖母の入れてくれた濃い緑茶を啜る。

台所の小さな窓から生暖かくゆるい風が湯飲みの間をすり抜けて行った。祖母がちらりと窓の方を見る。

「明日あたり満開だろうね……」

呟くように言い湯飲みを傾けた。

朝、僕は雨音で目が覚めた。風の音もする。起きがけにスマホを見ると紗里からの着信通知がまず目に入った。

どうしたんだろう? こんな早くに……

折り返したが出なかったのでメッセージを残しておいた。

おはよう

雨だね

何かあった?

外へ出ると傘は使い物にならなかった。風は轟々と音を立てていたし、看板をガタガタと揺らし雨を横殴りにして南から北へと吹き荒れていった。桜並木に着く頃には僕のジーンズは雨を吸って重くなり濃く色を変えていた。

見上げると桜の枝は花たちを支えようと懸命に構えている。せっかく綺麗に花開いたのに今日でだいぶ散ってしまうのだろうな……

そう思いながら前方に目を向けるとそこには紗里が立っていた。紗里は傘も差さずに桜の木を見上げている。全身ずぶ濡れだ。僕は理解できないまま紗里の元に駆け寄って行った。

「何やってんだよ」

思わず強い口調になってしまった。

 

【前回の記事を読む】肌寒い日が続く中、出会った彼女。僕の心を揺さぶったあの日の思い出