「あっ、大事なことを忘れていました。ここは健常者と善常者が共に生活し、共に支え合って暮らしています。そんなところにも『円い町』の特徴があります。みんなが心も体も円くなって偏見と差別のない平等な町でもあるのです。そして、ここでは海の幸、山の幸を獲って自給自足しています」
春恵さんの顔が更に円くなって、満面の笑みで満ち溢れていた。晴美の心もいつの間にか円くなったような気がし始めた。
「私は精神障がい者ですが、健常者と精神障がい者が共生・共存していると父親から聞き、ぜひそこへ行ってみなさい、と言われて東京O市から来たのです」
「それは遠い所からはるばるご苦労さま。でも、お見受けしたところ、四つの条件をあなたは満たしていないようですね。しかし、心配しないで下さい。これらの条件を満たせるように、これから東京に帰って努力して下さい。何年かかっても私たちはいつまでもお待ちしています」
春恵さんは晴美の体と心全体を包み込んでしまうような慈愛に満ちた眼差しを向けた。そんな優しさに包まれ、晴美はすっかり感動してしまった。そして、きっとこの『円い町』の住民になるぞ! という固い決意をしたのである。
4
「ただいま」
翌日、晴美は東京の自宅に戻ってきた。
母親はきつねにつままれたような表情をした。
「一体、どうしたの。『円い町』へ行ったのじゃなかったの?」
声高に言う母親は、我が子の姿を見て、それでも嬉しそうに言った。
「もちろん『円い町』に行ったわ。行ったけれど、四つの条件を満たさないと町民にはなれないのよ。私は、これからそれらの条件を満たすように努力しないとならないの。忙しくなるわ」
晴美はリーダーの春恵さんとのやりとりを詳しく説明した。
「そうなの。それはそれは。頑張りなさいよ。母さんも応援するわ」