第3章 貧困に耐えた中学時代

お弁当を責められて

忘れられない事があります。それは高校生になった次兄のお弁当の事です。

いつも梅干しと昆布の佃煮を入れていたのですが、ある時少し綺麗に飾るつもりで桃色の魚肉ソーセージを入れたのです。兄は帰るなりカンカンに怒りました。

「俺は奨学資金を借りてんだぞ」

「格好悪いからぜいたくな物は入れるな」

と言うのです。兄の言うことはよく分かるのです。

しかし、これまで心で思っていても口にしたことの無い家の貧しさを、改めて突き付けられた思いでした。何も言えず、涙を零すまいと悔しい思いでじっと我慢をしたのです。お弁当は綺麗に食べてありました。おそらく兄は、折角のソーセージを味わうどころか友達に見られないように、急いで口の中に入れたに違いありせん。

兄は時折夕食の時に、高校の先生の冗談のような話を、聞かせてくれました。

「石鹸で顔を洗う時にな、石鹸が目に入って沁みても、眼球を洗っているのだから良いことなんだよ」

と言ったり、

「林檎が赤くなっとな、医者が青くなんだぞ」

などと言ったり、本当のような嘘のような話をして笑っていましたが、お弁当の事一つ取っても、学校では肩身の狭い想いをしていたのかも知れません。

弟と妹の学芸会がありました。日曜日なので家族が見に行きます。私もお弁当を作って行き、講堂の床で他の家族と同じように三人で食べました。どんなお弁当を作って行ったのか、朧気に思い出します。自分の運動会や学芸会の時に、母が作ってくれたお弁当を思い出し、同じように作ろうと考えました。

真っ白なご飯で作ったお寿司をお重に詰めました。そこには、茶色の稲荷ずしと黒色の海苔巻きが行儀良く並んでいます。弟と妹は滅多に食べる事の出来ない御馳走を、美味しそうに食べていました。海苔巻きに入れた赤いオボロが特に気に入ったようでした。甘い物は珍しかったのです。二人は今でも、その時の事や味を覚えているだろうか。