第三章 運命の人

ミヨは達也をじっと見つめる。

「もし、二人とも合格したら……付き合うことになるのかしら」
「えっ? 僕と結花が? ないない」

冬空を見上げ笑う達也。ミヨは胸に手をあて視線を落としている。そんなミヨに気づくと達也は、今度は実花を真似てみせた。

「ああ、ひょっとしてミヨ先輩、妬いちゃってるとか?」

ミヨは達也に視線を戻した。
「達也くんを結花ちゃんにとられちゃったらどうしようって」

ミヨは無言のまま後ろを向き、スタスタと歩きはじめた。

「あ、ちょ、ちょっと待って先輩。冗談っすよ、冗談。待って、待って」

ミヨはどこかへ消えてしまいそうで、せきたてられるような胸騒ぎを抱えて、達也はミヨを追いかけた。

二人はしばらく境内を散策した。冬の日暮れは早く、夕刻には薄暗くなりはじめた。

「ミヨ先輩、神社の隣に小さい公園があるから、そこへ行ってみませんか? いい物を持ってきたんですよ」

徒歩で五、六分の所にある小さな公園までやってくると、木製のベンチに二人は腰をかけ、達也はバッグからビニール袋を取り出した。

「実はこれなんです。じゃん」
達也は得意気に花火を取り出した。

「やりません? 季節はずれだけど。先輩、花火大会に参加できなかったって言ってたから。喜んでくれるかなって」

達也の照れ笑いに応えるように、ミヨは微かに微笑んだ。

二人は真冬の花火を楽しんだ。美しい色彩に照らされ、ミヨが微笑んでいる。痩(や)せてしまったその顔に胸を痛める達也だったが、それでもミヨをずっと感じていたかった。

ミヨがうっとりとしている。本当に喜んでくれているようだ。

最後に残った線香花火を手に取ったミヨはつぶやいた。
「花火、最後だね。これで」

二人は一本の線香花火を見つめた。冷たい風が吹きぬける。ミヨの肩が震えている。すっかり遅くなった。そろそろ病院に戻らなくてはならない時間だ。

ミヨがゆっくりと最後の線香花火に点火した。

「やめて」とミヨを制する言葉が思わず口からついてでそうになる。

松葉のような光を見つめるミヨの瞳が潤んでいるのがわかる。

「ずっといっしょにいたい」という気持ちも、この花火が終われば叶わぬ願いとなる。それでもわずかな明かりの中、二人の時間を達也は想った。

こうこうと赤く光っていた灯がついにポトリと落ち、最後を迎えた。

「終わっちゃったわね」
ジンワリとその熱が土に奪われていく火薬を見つめ、ミヨがポツリとつぶやいた。

「私たちは、終わらないわよね……?」
「え?」

土に還ったことを見届けると、ミヨがまたポツリと言った。
「そろそろ帰りましょうか。さすがに冷えてきたわ」

二人は病院へと戻るため、近くのバス停へと向かった。