「語り部の方は、先生のおばあちゃんで間違いありませんよね」と蓮音は華音を見た。

「そうよ。良く知っていたわね。私の母方の祖母で間違っていません」

蓮音は興奮したのか、部員に向かってまくし立てた。

「あの番組は三十分の特集で、最初に空襲で焼け野原になった富山市内の写真が映し出された。そこには県庁、電気ビルや百貨店の外観だけが残っていた。

俺は、こんなにもひどかったのかと初めて知った。

県だか市の学芸員が説明していたんだけど、一七〇機以上のB29爆撃機が飛んできて、クラスター爆弾を投下し、空中で散らばって無数の焼夷弾が家屋やビルを焼き、地面に突き刺さったそうだ。

逃げ惑う人たちにも容赦なく焼夷弾が降り注ぎ、中には直撃を受けて即死したり、燃え盛る火の手の中、必死に逃げながら多くの人たちが神通川に向かったらしい。河原や土手に集まった大勢の人たちは、B29爆撃機の一斉射撃の標的にされたようで、無数の死体が転がっていたと証言していた人がいた。

そのあと、先生のおばあちゃんが語り部として、自分の母が焼夷弾をまともに受け、そのときの生々しい有様を淡々と語っておられた。時折涙ぐんで無言の時間が経過しているとき、バックで流れた音楽が『イマジン』だったんだ。

『イマジン』の歌詞を調べてみると〝人類が平和に暮らすためには、人種、宗教、民族、貧富の差などを理由に殺したり、殺されたりしない世界を築くしかない。だから世界は一つになって差別のない社会をつくりあげよう〟とジョン・レノンとオノ・ヨーコが訴えていた。

そのことに感動し、俺の心に響いてきて涙がとまらなかった。高校三年最後の思い出として、この曲を合唱コンクールで歌いたいんだ」

部員たちは、蓮音の真剣な表情に圧倒され、誰も口出しできなかった。

その光景を黙って見ていた華音の目は、潤んでいた。

「桜谷くん、ありがとう。あの番組、祖母が出演するので私も見ました。ただ祖母のお母さんが、ああいうふうに亡くなられたの、私はあの番組で初めて知りました」

華音の発言で音楽室は静まり返った。

「祖母は、多くを語りたくなかったんだと思う。もし、私が祖母の立場だったら、あまりの恐怖感から抜け出せず、家族であってもしゃべれない。身内の私にさえ話したことがないことを、公のそれも誰が見ているのかわからないテレビの前で語る祖母の勇気、私は感動したわ」と華音はしんみりとした口調で部員たちに吐露した。

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