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『真理』

黒髪が川の流れのようなうねりを白いシーツに描いていた。

湿った寝息を立てている少女を見る。翠とは違う肌の質感に始めは感動を覚え、貪るように確かめていたがすぐに理解してしまい、もう知りたいことはなくなってしまった。弾む肌や若さという独特の匂いが、今の僕には苛立ちを誘発させるものだけになってしまっていた。

「せんせー起きてたの?」

「……」

「何考えてるの?」

「や、別に何も……」

目を覚ました女子生徒が僕の肩に鼻を擦りつけてきた。

「もうやめよっか」

「えっ?」

「ダメだよな、こんなの」

女子生徒は素早い速さで起き上がった。何か僕に言いたいのに言葉が出てこないのだろう。女子生徒の視線を感じる。

僕はといえば全く違う方向を見ながら、不誠実な考えを巡らせる。ダメだよな、と自分で言っておいてそうではないような気もする。何がダメなんだろう? 同意の上でのことなのに。法律で定められていることは知っている。だからなんだというのだ。

翠の背中にある花のような傷跡を思い出す。僕はこんなところで自分の甘さを知ることになる。

「ひどいよ先生……」

女子生徒は泣き出した。

「わたしは本気なのに」

予想できる展開と言葉。

きっと僕はこの女子生徒を置いてこの部屋から出ていくのだろう。傷つけているとわかっていても僕にはどうしようもできない。

少女は嗚咽しながら泣き、やがて涙が枯れた後、次にどんな行動を取るべきか考えるのだろう。僕はもしかしたら裁かれるのかもしれない。そうなっても仕方がないと思う。人間皆多かれ少なかれ罪を犯し、生きているのだから。

ホテルのエントランスを抜けたところで翠にメールする。

今から帰るね

待ってる

寒いから鍋が食べたい

材料買っていくね

わかった

でも、寒いからなるべく早く帰ってきて

エアコンつけなよ

……

待っているから

ずっと待っていたから

なるべく早く帰るよ

僕はダッフルコートのフードをかぶり足早に歩いた。ピラミッド型の紅茶を切らしていたことを思い出した。

そういえば翠は一人でお湯さえも沸かせなかった。一人でお湯を沸かしたくないから、電気ケトルをあえて買わないのだ。翠はガスコンロを異常に怖がっていた。ほんの数日、家を空けただけなのにとてつもなく長い間僕はさまよい歩いていたような気がする。

その間、翠からは一度も連絡は来なかった。僕は思う。本当は、わかっていないのはこの僕なのだ。翠はずっと同じところにいて自分なりの歩幅で歩いていたし、懸命に生きようとしていたのに。

僕は走り出す。鍋の材料なんて後でいい。寒さを温めるのは物的なものではない。

翠の過去も現在も丸ごと受け止める覚悟を持って、僕は息を切らし走り続けた。

夜が明けてしまう前に。