二 駄菓子屋の娘でよかった!
いつの間にか雀が鳴き始め、空も白み始めてきました。
将来のことを考えたり昔のことを思い出していた私は、(もう朝か~……なんだか、すっかりノスタルジックな気持ちになったわ)と考えているうちに、目の奥が重くなり、深い眠りに入りました。
しばらくすると、母が部屋に入ってきて「アンタ、今日会社に行かないの? 遅刻するわよ~」という母の声で目が覚めました。
「ヨーコ、なんだか目がむくんでない?」
「お母さんたちがみかどをやめたいって言うから、昨日はなかなか眠れなかったわよ」
「私とお父さんはアンタに報告したから、ぐっすり眠れたわよ。ね、お父さん」
父は静かに笑っていました。現実に戻り(よし、閉店まで頑張るとするか……)という気分に変わりました。
とはいっても、通販カタログに登場するモデル、海外映画の宣伝イベントにゲスト出演してもらう芸能人の交渉をするのが本業で、電話や企画書で口説きますがラブレターを書くときのように、心の琴線に触れる言葉を探すのにいつも四苦八苦しています。
ある晩のこと、元気よく「ただいま!」と玄関の戸を開けると、テレビの音も聞こえず、両親が顔を突き合わせて真剣に何かを話していました。どうやら、近所に住む良男くんの話題のようです。
良男くんは三歳くらいから毎日、社交的でおしゃれなお母さんに手を引かれて駄菓子を買いに来ていました。
ところが、良男くんが中学生になった頃、お母さんが子どもを置いて家を出て行ってしまいました。良男くんのお母さんとは仲がよかったのでショックでした。
その良男くんが最近、あまり人相のよくない友だちとつるんでいると母は心配で心を痛めていました。革ジャンもどきのジャケットを着て眉を剃り、目つきの鋭い友だち二人がいつも一緒みたいです。
「あの良男くんも、クサリをジャラジャラとぶら下げて歩いているの?」と聞くと、母は口元をゆがめていました。
良男くんはいつもみかどに来ると明るく挨拶してくれる子なので、すぐには信じられませんでした。
母は「そうなんだよ。だから、心配でねぇ」とため息をついていました。
それまで母の話を黙って聞いていた父が、「おまえ、簡単だよ~。良男くんを特別待遇のえこひいきすればいいじゃないか!」と言い出しました。
母も「そうだよね、えこひいきすればいいんだよね。あんないい子が不良になったら、大島界隈が暗くなるからね」と瞳を輝かせておりました。