一章 自我が目覚めるお年頃
一 みかどを閉店します
富山の片田舎から下町に嫁いだ頃は、母も人間関係で苦労したようです。
当時は、各家庭には水道は通っておらず、共同水道を十世帯くらいで使っていたのです。
そこに行けば、他の誰かが必ずいます。特に水を使う時間帯は同じだから、会わずにすませる、というわけにはいかなかったようです。
年配のおばさんたちは、個性的で嫌味を言う人もいれば、優しい人もいます。
年配らの会話を笑いに変えて楽しむ若妻もいれば、さりげなく嫌味で返す奥さんもいるし、クヨクヨタイプもいたようです。若妻たちは結束して、励まし合っていたそうです。
嫁いで来た当時、べらんめえ調の江戸っ子がとても怖かったそうです。しかし、人のよさに気づくとコミカルな会話に思えて楽しくなり、おせっかいで人情味のある江戸っ子が母は大好きになりました。
何かあっても笑いに変えて楽しむタイプの母は、江戸っ子さんたちとすっかり仲よくなりました。江戸っ子のおじさんやおばさんたちの会話はまるで落語を聞いているような感覚に思えてなりませんでした。
夕食の支度が忙しい時間帯に、道の途中で江戸っ子風のおばさんに会うと世間話に花が咲き、そのあとはバタバタと走り回るハメになりますが、それでも、おばさんたちとの世間話は、なくてはならない宝物でした。
最近では江戸っ子気質で気風のいいおじさんも見かけなくなり寂しいことですが、それもときの流れでしょうか……。
そんな時代の流れを、駄菓子屋みかどはずっと見続けてきました――。