六 ジローとお父ちゃん、お母ちゃんのこと

翌朝、驚くべき悲しい知らせがハナコの元へもたらされた。ミミちゃんがデビルに獲られたのだ。

「ええっ、ミミちゃんが!」

ハナコは絶句した。

小さい頃からいつもいっしょに遊んでいたミミちゃん。ハナコを本当のお姉ちゃんのように慕っていたミミちゃんは、ひとりで遊んでいたところをデビルに獲られてしまったのだ。

「そんな……、そんな……、ミミちゃんが……、ミミちゃんが……」

ハナコは余りのことに気が動転し、自分が何を言っているのかわからなかった。

「ミミちゃんのおじさん、おばさん……、ミミちゃんが……、ミミちゃんが……」 

そう言って泣くハナコに、ミミちゃんのお父さんとお母さんも、泣きながら言った。

「ハナコちゃん、おじさんとおばさんは本当はミミちゃんの仇を討ちたい、デビルをやっつけたい。だけど、生まれたばかりの赤ちゃんを置いてはいけないんだよ」

ミミちゃんのお母さんは、これより少し前、オスの赤ちゃんを産んだのだ。ミミちゃんは喜んで、

「ミミちゃん、弟ができたのよ。ミミちゃん、お姉ちゃんになったのよ」

しんから嬉しそうに群れのみんなに触れて回っていたのだ。そのミミちゃんがデビルに獲られてしまったなんて、神様は何という残酷なことをなさるのでしょう。

「赤ちゃんまでデビルに獲られてしまったら天国のミミちゃんがどんなに悲しむことだろう。だからね、ハナコちゃん、おじさんとおばさんは赤ちゃんを連れてデビルのいない遠くの海に行くことにしたんだ。ハナコちゃん、今までミミちゃんと仲良くしてくれてありがとう。ミミちゃんはハナコちゃんのことを本当のお姉ちゃんみたいだと言っていたよ。ハナコちゃんとはこれでお別れだけど元気でね。デビルに獲られないように気をつけるんだよ」

そう言うと、ミミちゃんのお父さんとお母さんは産まれたばかりの赤ちゃんを連れて、遠くの海へ去って行った。その後姿をハナコはいつまでも見送っていた。

「許せない、デビルの奴、絶対、許せない」

ミミちゃんがデビルに獲られてしまった悲しみは、ハナコの心の中で、やがて怒りに変わっていった。ハナコはどうしてもデビルと戦わなければならない自分の運命を感じた。

「これがわたしの運命なのだ。たとえデビルに負けて殺されてしまっても、わたしはデビルと戦わなければならないのだ」

ハナコはやっぱりコジローのプロポーズを断ることにした。

「コジロー、わたし……」

「わかっているさ、ハナコ。いっしょに戦おう」

「えっ?」

「君だけをデビルと戦わせないよ。たとえかなわなくても、ふたりで力を合わせて戦おう。死ぬ時も生きる時も、僕達はいっしょさ」

「ありがとう、コジロー」

二頭は何度も頬擦りをした。