そう言えば 電車の中もこんなだった

アナウンスは 普通だったし

朝の通勤電車は 話す奴も少なくて

あんまり 気に留めてなかった

ヤバい ヤバいぞ

と思ったら 社員証出してた

そうだ これで誰だかは分かると

一瞬 ほっとしたけれど

言葉が分からなきゃ 仕事にならない

不安を抱えて オフィスに入った

会社の奴らは 残らず植物になっていた

隣の奴は 立派な観葉植物だった

つやつや厚手の葉っぱが 服から出てる

そのどっしり感が うらやましい

オフィスは 緑のざわめきで満ちていた

机の上の電話が 鳴った

恐る恐る取ると 普通の言葉

普通にやり取りできるのが すごく嬉しい

だけど いつまでごまかせる?

会社の奴らの言葉が 全然分からない

もうすぐ ミーティングで

その後に お客様のとこのアポで

・・・ムリだ 恐怖が首を締めあげる

きっと大失敗して 何だか分からない内に 

追い出されて・・・ダメだダメだダメだ!

キキィッと鳴る音で 我に返った

俺はいつの間にか 外にいた

自転車に乗った 黄色い花が

なんかザワッと しきりに揺れてる 

怒ってるんだろうけど 分からない

小犬がワンッと 足元で鳴いた

リードを握るは 白い房状の優美な花枝

花枝マダムも さわさわ言ってる

犬はワンワン 今まで通り

動物は 花に変わったりしないのか

無性にどこか 人にぶつからない

広い所に 行きたくなった

二人に適当なことを 言って

俺は 地下鉄に乗りこんだ

目指すは 市内最大の公園だ

中央公園は 相変わらずデカい

服着た花たちが 芝生にあちこち

墓石みたいな 高層ビル群が

花人間たちと 何故か今まで通り見える

犬や子供たちを 見下ろしていた

【前回の記事を読む】詩集「まかろんのおもちゃ箱」より二編