【前回の記事を読む】温かくて大きな手…親さえも面会に来ない病室に彼は毎日来てくれて

第三章 ぽんこつ放浪記

3.恋愛放浪時代

命の恩人:Kさんとの出会い

けれど彼は私に構う余裕はなかった。彼は家業を継がず家を出て、アルバイトをしながらの大学生活。大学の授業、学習塾のバイト、党員活動、そして新しい夢を追うための準備もしていた。

私が復学し、Kさんはホッとしたようにしていた。別れの予感? というか、はっきり「最後のデートをしよう」と言われた。

最後のデートは三月の海、しかも日本海。寒かったが無邪気に波打ち際まで行った。波と遊ぶ子犬を見るように彼は私を見ていた。別れなければならないことはわかっていた、でも無理、心は動けない、というか足が霜焼けで動けなくなった。

そんな私に気づいたKさんは私をおんぶして、「やっぱりお前は重荷だよ」と言った。そう、体重も増えていたの。ごめんなさい、重かったのね。ありがとう。私はとりあえず生きていけそう。

その後、不思議なご縁でKさんと運命的な再会。

Kさんは、別れて三十年も経った女に「よう、元気か?」と相変わらずまぶしい笑顔で言った。

「元気じゃないよ、あなたこそどういうこと?」と尋ねると、「お前、どうした? 声が変だぞ」と言ってきた。

三十年ぶりなのに、昨日会ったみたいに言う?

三年前、Kさんは交通事故で頸椎を損傷し、首から下は全く麻痺の状態だった。

「ショックで泣いてた」と言うと、「馬鹿だな」と笑われた。

しかし、Kさんは、私に子どもがいること、離婚直前であることを聞くなり、「もう、ここに来るな!」と怒った。

翌日から私だけ面会謝絶にされた。Kさんは、ずっと独身だった。私はきっとまだKさんのことが好きだった。

それに気づいたKさんの、私への最後の思いやりだったのかもしれない。運命は残酷だ。