第一章 新しい家族
引っ越し
教室に入ったら裕ちゃんと光君が待っていたみたいで、すぐそばに来てくれた。光君が小さな声で、
「クラスのほとんどの人がお通夜に来たじゃん。だからヒロちゃん、今日の朝の会でなんか言った方がいいんじゃない?」
裕ちゃんもひそひそ声で、「今日言っちゃえば、みんなにごちゃごちゃ訊かれないで済むと思うんだ」
二人とも真剣な表情だった。二人は夏休み中あんなに一緒に遊んだのに、事故のことを話そうとしない僕の気持ちをわかってくれていた。二人のおかげで勇気が出た。
隣の席の小森麻衣という女子が座ったまま、
「ご飯は誰が作っているの?」感情のない声で訊いてきた。
背がとても小さくて、クラスで一番ちびで、女子のグループにも入っていないけれど、寂しそうでもない。いつも背筋をぴんと伸ばして小さい体を大きく見せるように真っすぐ前を向いて授業を聞いている。
普段ほとんどしゃべらない女子だからちょっととまどった。小森さんの顔を正面から見たことはほとんどなかった。
「お姉ちゃんが」と言ってから、言い直した。
「叔母さんがやってくれてる」
「私、晩ご飯作ってるよ」
抑揚のないしゃべり方だった。みんなが笑っているときにも小森さんの笑い声を聞いた記憶がない。小森さんはお母さんと二人暮らしだ。
担任の花井先生が教室に入ってきたから急いで教卓まで行って、「みんなにお礼が言いたいです」と頼んだら、
「偉い。それがいいね」と言って、先生は目尻にしわを寄せて微笑んだ。