村長室の中にいる職員が三人ともポカンと口を開けたまま、私をジッと見つめている。
「私は権田原正二といいます。兄・正一の双子の弟です。今日は入院している兄の病状の報告で参りました」
「あ、あらま。そうですか。いやいや失礼しました。あまりにソックリでしたので」
青山という白髪の職員が驚きながら頭を掻き、他の二人も顔を見合わせ驚きを隠せない様子だった。
「それで、村長のご病状はどんな具合でしょうか」
今度は、「赤坂」というネームプレートをつけた年配の男性が質問した。
「実はあまり芳しくないのです。兄の病気は肺ガンです。それもかなり進行しており、予断を許さない状況になっています」
私が冷静に伝えると三人とも顔色が変わり、下を向いてしまった。
「そんな状況でしたので、お電話でご連絡というよりも、身内の者から直接役場の方にキチンとご報告をしたほうがいいと思い、本日私が参りました」
数秒間、村長室の時間が止まった。しばらくして青山という職員が口を開く。
「では、村長の職務を行うのは、当然難しいでしょうね」
「はい。両親や姉が毎日、兄に付き添っておりますが、今はなんとも言えない状態です」
私もうつむき気味で返答するのが精一杯だった。
「そうですか。了解いたしました」
青山という職員は沈痛な面持ちで小さくうなずいた。
「村長は村の皆さんからものすごく信頼されていましてね。それはもう大変な人気なんですよ。気さくでやさしくて」
他の二人の職員もウンウンと小さくうなずいている。
「あと任期満了まで三ヶ月なんですけどね。この村は選挙をするにも大変で……」
青山という職員は口に左手をあてながら少し涙ぐみつつ残念そうに声を絞り出した。
「本当にご迷惑をおかけします。また病状に変化がありましたらご報告にうかがいます」
私は頭を下げ、しばらくうつむいていた。
再び静寂が村長室を包み込む。他の二人の職員も困り果てていた。
しばらくすると、小さくポンと手を打つような音が聞こえた。
私は、職員に頭を下げ役場を後にしようとゆっくりとドアへ向かって歩き始めた。
すると、そのときである。
私は微妙な空気の変化を察知した。
「あのー、弟の正二さんでしたかね。本当にお兄さんにソックリですね」
青山という職員は、まるで時代劇の悪代官のようにニヤリと笑いながら話し始めた。