第1章 比叡山 焼き討ち
2. 将軍、比叡山との和議を朝廷に奏上
小姓
「将軍様にお伝え致しまする。只今明智光秀様が参られ、将軍様にお目通りを願い出ておりまする……」
義昭
「光秀、何用じゃ、予は今三好共との戦に備え、忙しい……」
⇒光秀は幕臣だぞ。信長が、この度の戦は皇軍としての大儀が必要であるので、どうしても派遣して欲しいと言うから光秀を貸し与えたまでじゃ。その光秀が何で信長の使いとして来るのだ……。
光秀
「はっ、公方様にはご機嫌麗しく、また、お忙しいにもかかわらず拝謁賜り、恐悦至極に存じ奉りまする。この度信長殿は、公方様の皇軍を預かり、某が戦に赴いておりまするが、聞けば『武田信玄が近々上洛するのではないか』との報せがあり、このままでは皇軍と信玄との戦いになる可能性が出て参りました。
何故に今この時期に、信玄が上洛を希望されたのか分かりかねますが……信長殿は、『今回の出陣は皇軍として出てきていることから、いまここで皇軍と信玄の直接対決は避けるべきではないか』と仰せられております。何故ならば、万が一にもそのような事態が起きた場合には、『天下分け目の戦い』となる危険性がありまする。
その場合は、将軍様に総大将として陣頭指揮を執って戴かなければならなくなる事態となり、再び天下が乱れる恐れがございます。従ってここは、公方様より朝廷に『朝倉との和睦の綸旨を賜るよう、お願いして参れ』とのご要請があり、かくの通り参上致しました」
⇒今回の大騒動は、皆公方様が発した御教書によるもので、これを鎮めるには公方様のお力に頼るほかはない。何としても朝廷より和睦の綸旨を賜るよう、上奏して戴けなければならない……。
義昭
「なに、和睦とな! 何をそんなばかげたことを!」
⇒今が信長を倒す絶好の機会なのじゃ! 誰が和議など朝廷に奏上するものか!
光秀
「はっ、何卒お願い申し上げ奉りまする。さもないと大変なことになる恐れがございます」
⇒信長殿は、正面の浅井・朝倉軍に加え、突然本願寺顕如が全国の一向宗門徒衆に「信長打倒の旗印を掲げ蜂起せよ!」と宣言したことや、近々武田信玄が上洛の軍を発進するとの報せが入り、四面楚歌で身動きできない危険な状況になる恐れがあることから、一旦体制を立て直す必要に迫られ、対応に窮しているのだ。
朝倉は朝廷から綸旨が出れば、すぐにも撤退したいのではないかと察し、信長殿に「将軍様に懇請して、朝廷より和睦の綸旨を賜れば、朝倉はこれに応じるはず」と進言したのじゃ。それゆえに何としても公方様に、『朝倉との和睦』を朝廷に上奏してもらわねばならない………。