義昭

「何、大変なこととは何だ。この予に『和睦を朝廷に上奏しろ』と命じるつもりか! 予は征夷大将軍であるぞ! 信長の家来ではないわ! 何を考えているのか、僭越ではないか!」

光秀

「ははっ、全く仰せの通りでござりまする。しかし、これは信長殿からのたってのお願いであります。それとも、信長殿の軍は、公方様の御旗を戴いた皇軍でござりますれば、武田軍との戦になった場合、公方様が戦場に立って陣頭指揮をお執りなされまするか。

某は『そのようなことはできない』と、はっきり信長殿にお断り申し上げておりますが、それ故に『天下静謐(せいひつ)』のため。何卒、何卒、お願い申し上げ奉りまする」

藤孝

⇒さすがは光秀殿じゃ、急所を押えている。これでは公方様も認めざるを得まい……。

義昭

「何を、予に総大将になり陣頭指揮を執れと? そのようなことを信長が言っておるのか!」

⇒余が総大将で陣頭指揮を!? 大変じゃ! 絶対に嫌じゃ!

藤孝

「えへん、えっへん……」

⇒公方様はいきり立っている。ここは頭を冷やし、冷静になってもらわねばならぬ……。

義昭

「うー、分かった。信長が予に頭を下げてお願いしているのだな……それならば分かった。早々に朝廷に和睦の綸旨を賜るよう、上奏しなければなるまい。信長にそう伝えよ」

⇒予が陣頭指揮に立つ訳があるまいに! しかし信長のことだ、もし予が断れば何をしでかすか分からない。やむを得ない、ここは一旦信長の願いを聞き入れ『和睦の上奏』をして参ろう。但し、和睦がなった後には、即刻信長から将軍旗を取り戻し、間髪を入れず武田信玄をはじめ反信長の諸将に再度信長打倒の御教書を発しよう。信長め、今に見ておれ!

光秀

「ははっ、ありがたき幸せでござりまする。早速信長殿にお伝え致しまする」

⇒しめた、これで時間が稼げる! 戦を知らない公方様を何とか騙し終えた! 朝倉もこれで撤退するであろう……。

【前回の記事を読む】岐阜へ戻り、体制を立て直すには…信長と秀吉を唸らせた「光秀の妙案」