寝室に入った瑠璃は、「早く着替えて」と真一をせかせた。

「どうしたんだい? そんなに急がせて」

真一が普段着になったのを見て、瑠璃は口を開いた。

「今日、お母さんの人間ドックの検査報告書が送られてきて、所見に膵臓癌の疑いありと、書かれていたの……」

「膵臓癌! 厄介だな」

「膵臓癌の疑いとなると、大きな病院がいいと思うんだけど。どう?」

と瑠璃が心配そうに真一に相談した。

「そうだな。うちの大学の医学部附属病院がいいと思う。明日、医学部の高瀬くんと相談してみることにするよ」

と真一は応えた。真一は一階に下り、リビングのソファーに座った。目の前で文子は本を読んでいた。文子は老眼鏡を外し、

「ごめんなさいね、真一さん。お迎えしなくて……」

とお辞儀した。

「そんなこと、気にしないでください。瑠璃から聞きました。お義母さん、膵臓癌の疑いあり、と人間ドックの検査報告書に書いてあったんですって……」

と真一は念を押した。

「そうなのよ。大したことないと、いいんですけど……」

と文子は頷いた。

「さっき瑠璃とも相談したんですが、お義母さん、うちの大学の医学部教授に高瀬純一郎という、私と高校の同級生の外科医がいます。彼に相談して、精密検査するのにどこの病院がいいのか聞いてみることにします」