そして、結党大会の二か月前、武藤が与党幹事長荘田武夫に根回しした直後に、あの静岡選出の衆議院議員が動いた。離党届を提出したその日に幹事長室へ呼び出された。
「君は、造反によって離党を余儀なくされ、やっと復党し、当選回数六回と黙っていてももう直ぐ大臣の椅子が回ってくるというのに、このタイミングで離党すると言うのか? 私にはさっぱり理解できないが?」
と理解できないという表現で質された。すると、
「はい、離党させて下さい。何卒宜しくお願い致します」
と言って深々と頭を下げると、
「何が、何が不満なんだ?」
幹事長は質してきた。
「……強いて不満な点を挙げるとすれば、与党の中にある理不尽とでも申し上げましょうか」
と議員が答えると、
「理不尽?……すまんがもっと具体的に言ってくれないか?」
と問われ、
「さして落ち度もないのにマスコミのメディアスクラムによって不安心理をかき立てられ、『今の総理のままでは選挙に勝てない!』と言って総理総裁を交代させるような理不尽です……。そもそも総理の人気にあやかって当選しようとする議員の存在が理不尽ですし、その理不尽を正そうとしないで総裁選をする党に愛想が尽きました」
と慰留の余地のない事を告げると、
「そうまで言うのなら、致し方あるまい。君の離党を認める」
と幹事長が離党を受け入れた。静岡選出の議員は、
「ありがとうございます」
と言い残して幹事長室を後にした。