❽MONDO 本を奪われる
小さな納屋には、ジルの趣味のガーデニングに使う動具が所狭しと置かれているだけだった。だがベルサが床に敷かれたマットの角が一部めくれているのを発見し、カイユが持ち上げてみると、隠し扉が現れた。開けてみると地下に向かう階段があり、小さな手作りの部屋があった。
しかしここもジルの姿はなかった。部屋は、夢に関する資料と本で埋もれ、テーブルには一冊のノートが置かれ、カイユが目を通すと、ジルは夢の奥にある世界、エガミについて調べていたようだった。
ベルサは、ギッシリと本が並んだ棚の中から小説の『雲海のエガミ』を見付け出した。カイユはジルもこの本を読んでいた事を初めて知った。ただこの小説の本は、カイユが持つ本のようにカバーは皮で作られていたので、二冊の本は見分けがつかないくらいによく似ていた。部屋には革の切れ端や小さなミシンが置かれ、ジルが自分で作ったのだろうと皆は想像できた。ただ何の為にどうして作ったのかは分からなかった。
ベルサが急に何かを思い出しその本を開いた。最終ページでムスクと言う名の者が、モンドと言う現実世界に入ったところで終わっていた。ムスクは、猫の記憶の持ち主らしく、モンドの世界にある教会の鏡から現れていた。
カイユの本を奪った猫が、そのムスクではないかとベルサは推測した。クラスの皆が噂していた猫男の話とも一致した。ジルは何者かに連れ去られたのか? その教会が関係しているのか? 猫人間がエガミから本当に入って来たのか? カイユの頭の中は色々な考えが巡り混乱したが、今、ジルを探す手掛かりは何もなく、その小説で描かれた教会が町の何処かに存在しているかも知れない。
三人は車に乗って探す事にした。ベルサはジオが作った革のカバーの本をとても気に入り、カイユの了解を得てジオの部屋から持ち出し肌身離さずに持っていた。三人は、しばらく車で探策していると、隣の町に小説に出てくる佇まいと似ている教会を見付け出した。
周りは植木と柵に覆われ中の敷地はよく見えなかった。植木の上部から見える教会はそれほど高くなく、見えた屋根から想像すると学校の体育館よりは小さな建物のように感じた。
この教会はラー教の教会で、太陽を信仰しているらしく教会の正面の壁に大きな太陽のシンボルマークが描かれていた。バナルバは入り口の門には鍵がかかっていて入れそうになかったので、この場を見張るよう二人に任せた。