「未だジルが行きそうな場所を探してみる。だが私が戻るまで決してここを動かないように」

そう、バナルバは二人に指示し車で向かった。バナルバに待つよう言われたがおとなしく待っている気にはなれない二人は表と裏で分かれて見張ることにし、信者や猫が現れたら教会へ入ることを決めると、ベルサは裏へと向かった。

カイユが周辺の茂みに身を隠し様子をうかがっていると、夕方になり一匹の猫が本をくわえ現れ、植木の木々の間に入って行った。カイユは直ぐにベルサを呼び二人は急いで猫の後を追うと、なんとか通れる程の隙間があり、抜けると建物の裏にドアが見えた。そのノブを回すとカギは掛かっていなく、教会内に入る事が出来た。木造の教会の部屋数は少なかったが、猫が何処へ行ったのか分からない。

廊下を抜けると広い本堂があり、大きな鏡が壁にはめられていた。その両脇には見張りらしい、目元しか開いていない白い宗教着を頭から被った信者の二人が立ち話をしている。ベルサとカイユは身を隠し聞き耳を立てた。

「本が開かれ、昨日、本当に鏡から猫が出て来て驚いたな。ローザ様が言っていた事は本当だったな……」

「ああ……。で今日、あの猫が戻って来れば、全て預言通りだ。本も手に入る」

「ならば後は、想像主様だけだな……」

「そうだな。まあ、見付かるのも時間の問題だろうな……。あ、ローザ様だ」

赤い宗教着を着た細身の背の高い女性がローザらしい。二人に喋らずしっかりと見張るよう注意した。ローザは信者達に教祖様と呼ばれ、他の信者とは違い目元も仮面で覆われ素顔は見えなかった。ローザは数人の黒い宗教着を着た幹部の信者を集めると確認した。

「鏡が開く時間が近付いた。もう少しすれば奴は現れる……。用意は大丈夫?」

幹部達は、頷き全て手筈通りと答えていた。カイユは、音がして窓から外を覗くと教会の周りに信者が立ち並んでいるのが見えた。カイユとベルサは部屋にあった白い宗教着を拝借し、猫を探したが何処にも姿がなく、ジルもまたこの教会には居ないようだった。

(ここに捕らわれていないとすれば、一人で歩く事もままならないジルは一体何処へ行ってしまったのだろう?)

カイユは考えても答えは出なかった。バナルバには、待つよう言われていたが、もう後戻りは出来なかった。ここで何が行われようとしているのか確かめたかった。

【前回の記事を読む】「まさか…、僕が?」背の高い男の頭部めがけ、蹴りをくらわした!?