サカがいつの頃から町を徘徊するようになったかは定かでない。私が高校生三年の頃にはもう、徘徊とゴミあさりで地元のちょっとした有名人になっていた。親も妹弟もいるということだけれど、いっしょに住んでいるのだかいないのだかも分からない。とにかく住む家があるからホームレスではないものの、ホームレスに近い暮らしを送っていた。
複雑な家庭事情からそういう生活に転落したに違いないけれど、田舎町のことだから炊き出しなどの支援もなく、むしろ都会のホームレスよりひどい暮らしであるのかもしれない。
これまで何度となく里帰りしてきたけれど、サカの姿を見かける時もあればそうでないこともあった。十年ほど前についにオンボロ屋敷は火事になり焼失してしまった。火事の原因は定かでないが、その後敷地内に誰の援助だか知れないがプレハブ小屋が運ばれたそうで、以来サカはそこで一人暮らしているらしい。相変わらず町をさまよい、生ゴミをあさりながら。
固定資産税など払っていないだろうから、なぜ土地が差し押さえられないのか不思議である。親戚に援助者でもいるのだろう。それにしてもあれから二十二年だ。私より年上だから、四十五から五十の間とか、そのくらいの年になっているかもしれない。生ゴミをあさりながらさまよい続けるには、もうつらい年齢だろう。
そんなことを考えながら墓場を囲うブロック塀沿いの道を自転車で進んでいたら、四つ辻の角にあるゴミステーションに、黄色い燃えるゴミの袋が積み置かれていて、そこにいた。サカだ。炎天下の中、カラス除けのネットをめくり上げ、ゴミ袋の縛られた口をほどき、中のものをあさっている。
まだこんなことをやっていたのか。まだこんなことをやれていたのか。そもそもまだ生きていたのか……。
ある種感嘆の思いにとらわれる。ボサボサの髪の毛と無精ひげは相変わらずだけれど、うつむくその頬はこけ、年を取ったと感じさせる。無精ひげのせいか過酷な暮らしのせいか、もう五十をとうに過ぎているようにも見える。着つづけている服もまた、以前よりボロボロ度を増し、なおいっそうのさまよい疲れを醸し出していた。