第一章

3 サカ

『……図書館から帰る途中、アイツに会った。ゴミ袋をあさるなんちゃってホームレスのサカだ。サカはぼくが高校三年の頃には、もう町をハイカイしていた。古いけど家はあるのに、ホームレスのように町をハイカイし、ゴミ袋をあさっては食事している。

こんな生活をするようになって、ぼくはしょっちゅうアイツを見たりすれ違ったりするようになった。無目的にさまよってばかりいるからだ。ということはつまり、ぼくとアイツは同じ穴のムジナというやつだ。上から目線で見下している場合じゃありませんて! あれが将来の自分かもしれないですって! ゾッとなった。

ぼくもやがてあんなボロを着て町をさまよい、生ゴミをあさる生活をするようになったら……。神様、ぼくにそういう未来が待っているなら、どうかすぐに殺してください! あれはさすがにイヤです! そんなふうに祈ったら、神のこんな声が聞こえてきそうだ。

「大丈夫、あんな生活をしたらすぐに腹を壊してお前は死んでしまうから」

神よ、アリガトウ。確かにそうでございます……』

キョロキョロ周囲を見渡しながら、私は自転車を漕いだ。あの男、なんちゃってホームレスのサカはいないだろうか、と。本当は赤沼という名字なのだけれど、坂道の下に家があることから大昔から坂ん()と呼ばれていたらしく、それが詰まって彼はサカと呼ばれている。

サカの家は私の実家から歩いて十分とかからない近い距離にあり、昔はなかなかの名家であったようで、瓦ぶきの門構えなど、まるでお寺の入口のように立派である。けれど私が幼い頃にはもう没落しており、日記を記していた二十二年前でさえ、家屋敷は手入れもされぬままボロボロの感があった。