【前回の記事を読む】生き物を殺せば罰せられる…わが身を顧みずに魚を獲ったお坊さんの事情

第一章

⑦日本外史(巻之一・重盛の極諫)、平家物語(巻第二・小教訓)など「鹿ケ谷の陰謀」

【7】「平重盛(たいらのしげもり)」

宗族(そうぞく)である朝廷(ちょうてい)と並(なら)んで天下(てんか)の地(ち)の半分(はんぶん)を頂(いただ)くことができました。一族(いちぞく)は朝廷(ちょうてい)から恩(おん)を受(う)けることが最上(さいじょう)であり、朝廷(ちょうてい)から一族(いちぞく)が妬(ねた)まれていることなど、誰(だれ)が納得(なっとく)して言(い)うことができるでしょうか。

しかし、一族(いちぞく)の運命(うんめい)は尽(つ)きておりません。罪人(ざいにん)すでに捕(と)らえました。適正(てきせい)に罪(つみ)にあたるところを調(しら)べて収(おさ)めてから、これまでの理由(りゆう)を述(の)べるべきです。そうして、皇室(こうしつ)の権威(けんい)を晴(は)らすべきです。なぜ速(すみ)やかにしないのですか。

私(わたし)は、このようにも聞(き)いています。皇室(こうしつ)のことは家(いえ)にも影響(えいきょう)を与(あた)えますが、家(いえ)のことは皇室(こうしつ)には影響(えいきょう)を与(あた)えません。まして、善悪(ぜんあく)がはっきりしていることは当然(とうぜん)です。重盛(しげもり)は君(きみ)の恩(おん)を受(う)けており、挙兵(きょへい)など耐(た)えることができません。従(したが)うか背(そむ)くかなど決(き)めることはできません。最初(さいしょ)から皇室(こうしつ)に従(したが)う心(こころ)の者(もの)です。

重盛(しげもり)には、私(わたし)のために決死(けっし)の覚悟(かくご)で戦(たたか)ってくれる仲間(なかま)が二百(ひゃく)余(あま)りいます。過去(かこ)の前例(ぜんれい)として源義朝(みなもとのよしとも)は天皇(てんのう)の勅(ちょく)命(めい)を受(う)けて父(ちち)を斬(き)っています。子(こ)がこのような大(おお)きな道(みち)に背(そむ)いたことを言(い)うのも悲(かな)しいところです。これは父(ちち)を親(した)しく見(み)ることと異(こと)なっています。忠義(ちゅうぎ)の心(こころ)を持(も)てば孝行(こうこう)にならず、孝行(こうこう)の心(こころ)を持(も)てば忠義(ちゅうぎ)を棄(す)てることになります。重盛(しげもり)の心(こころ)はここにあります。父(ちち)が必(かなら)ず、今日(こんにち)の挙兵(きょへい)を止(と)めることができないと望(のぞ)むなら、まずは重盛(しげもり)の首(くび)をお切(き)りになってから出発(しゅっぱつ)してください」

このように言(い)って涙(なみだ)を流(なが)しました。その場(ば)にいた、全(すべ)ての人(ひと)が感動(かんどう)しました。清(きよ)盛(もり)は言(い)いました。

「私(わたし)は年老(としお)いてなお、ここに挙兵(きょへい)するのは、ただ、お前(まえ)たち子孫(しそん)を想(おも)ってのこと。必要(ひつよう)がないと言(い)うのなら、お前(まえ)が後(あと)のことを上手(うま)く処理(しょり)しなさい」

そう言(い)って立(た)ち上(あ)がり、部屋(へや)の奥(おく)に入(はい)っていきました。重盛(しげもり)は周(まわ)りを見(み)て、兄弟(きょうだい)、一族(いちぞく)を責(せ)めて言(い)います。

「たとえ父(ちち)が老(お)いぼれて事(こと)を起(お)こしたとしても、お前(まえ)たちがなぜ助(たす)けて止(と)めてやらない。逆(ぎゃく)にどうして誘(さそ)いを進(すす)めるのだ」