第1章 記憶の始まり
叶わなかった父の夢
父は宇都宮で毎回と言っていい程、大きなオートバイを長時間じっと眺めていました。私は、随分待たされたのを思い出します。オートバイがとても欲しかったのでしょう。
そうだとしても、父がこの最後に楽しんでいたオートバイを買う夢は叶いませんでした。
それどころか家にテレビや電話があり、子ども用自転車でお琴のおけいこに通うと言うぜいたくな生活は、長くは続かなかったのです。
何の仕業なのでしょうか? 何か悪い事をしたのでしょうか? 幸せの歯車がどんどん外れていきました。運命はどこで誰が決めるのでしょう? しかし運命と言うには、あまりにも予想すら出来ない過酷な世界へと続いていくのでした。そして私の人生は、とても厳しい道を歩むことになるのです。
第3章 貧困に耐えた中学時代
それは想像を絶する貧しさでしたが、
その貧しさ全てが自分自身なのです。
その日常は自分にとっての普通であり、
生きる縁は自分と家族だけでした。
一日一日を、
それがたとえ同じ繰り返しであっても、
力を要する日々でした。
この貧しさが私の人生の花である由は、
この時は微塵も思わずまた考えも及びませんでした。
今幸せな日々の中で静かに目をつぶると、
幼かった自分の必死に生きてきた姿が
走馬灯のように止め処無く浮かんでくるのです。
黙々と、
生きることだけを考えていた自分が見ていた物は、
自分の足元だけでした。