他にもこんな風にわけのわからない掃除をすることもある。本人曰く、片付けているそうなのだ。床に花瓶を置き、そのまま自分でけり倒すという高度な技もやってのける。記憶障害も不思議な現れ方をする。例えば、

「夕食食べたっけ?」

と、食べた一時間後には言うのだが、

「食べたよ、カレーライス食べたでしょ」

と言うと、

「そうだった、そうだった」

と言い、

「そうだ、夕方買ってきたリンゴがあるんだった」

と言う。ご飯の前に買ったリンゴの記憶はあるのだ。また、

「今日病院だっけ?」

と、思い出したように言うのだが、毎日飲む薬のことは全く覚えていない。結局のところ、興味のあることは覚えており、興味のないことは忘れてしまうのだろう。なんて都合のいい記憶なのだろう。

ごそっと物音がしたので起きたかなと思っていると、

「おはよう」

と言ってリビングに入ってきた。寝起きの顔だ。私が仕事を辞めてから最近よく眠るようになった。

「トイレ行ってきます」

と断ってからトイレに行く。何をするにも私の許可が必要だと思っているらしく、ママちゃんは朝から一つひとつの動作を確認する。

「ご飯食べてもいい?」

「これくらい食べてもいい?」

「卵かけていい?」

「お水飲んでいい?」

などなど。朝テンションの低い私は、タバコをふかしながら、

「いいよ」

で全部済ます。いちいち確認しない。できないようで食べることと着替えることに関しては私の許可がなくても一人でできる。なのに、聞く。その方が安心なのだろう。