【前回の記事を読む】産婦人科医にすら嫉妬…ヤキモチ焼きな夫の一念発起とは?
違和感
ついにその日が来た!
4月27日。その日は朝から雨が降り嫌な日だった。4月に2年生になる、私立高校に通う4人目の末っ子の娘が、なぜか登校拒否。学校に行きたいが体が拒否する。通学のバスの中で嘔吐することもあり事態は深刻。享子は娘と学校のカウンセリングなど受けたり、担任の先生に個別に相談したりしていた。
その日も享子は一人で学校のカウンセリングに行くことになっていた。トシカツは仕事が終わっていつものようにスーパーに寄って食材を買い、家に帰って夕飯を作り始める。
当たり前のように言っているが、小川家では享子が夕方過ぎまで寝ているから、夕飯作りはトシカツの担当なのである。料理はトシカツの趣味でもあるから、何となくそんな決まりになっていた。
トシカツは子供たちに
「ママは? そうか学校か」
トシカツは携帯のラインで
「雨が降っているから、気を付けてね」
と送って、いつものように缶ビールを開けながら夕飯を作り始める。子供たちにご飯を提供して時計を見る。7時を過ぎている。トシカツは享子のことを心配しつつも、おかずをつまみに2本3本とビールが進んでいく。
8時過ぎ、携帯を開きラインを見るが、享子の既読はない、だいぶお酒も進みトシカツのメートルも上がってくる。いつもより量が増えていた。もう9時近く、トシカツはちょっとイライラしながらも次の日の仕事を気にして2階に上がり、布団に入る。いつもならそのまま寝てしまうのだけど、もう10時近い。
「しかし学校ってそんなに遅くまでやっているのかな? もう10時だし、享子も仕事に行く時間じゃないのかな?」
いつもならそんな心配もなく眠りにつくのだけど、この日に限って酔っぱらっても寝付けない。
「ただいま」
と享子が帰ってきた。お酒に酔ってイライラしているトシカツがドンドンと音を立てて2階から降りてきた。
「何だ、こんな遅くまで」
とトシカツ。語尾が強い。享子は
「仕事に間に合わないから、後にしてくれる?」
とそっけない。
「ラインも既読なしだし」
とトシカツ。
「うるさいなー」
と享子が言う。
「何ぃ!」
と怒りのトシカツは手を挙げ、大振りに享子の頭にバーンと一撃! やっちゃった、やっちまった。トシカツは怒りもお酒も冷め、自分のしたことを一歩下がって見た。倒れて泣きじゃくる享子、異変に気付き止めようとする子供たち。一寸先は闇、地獄絵図。全てが崩れた瞬間だった。
トシカツは逃げるように2階に上がり、享子は泣きながらお風呂に入り仕事に行った。子供たちはことが収まったと判断してテレビに戻った。まるで何もなかったように時が戻った。
しかしここからが、トシカツの地獄の始まりになっていったのである。自責の念に心が包まれ、トシカツはどうしようもない決意をした。一夜明けトシカツは仕事に向かった。淀んで生気のない顔、落ち込んだ心、うなだれた体。声も掛けたくないだろう、こんな人には。
車の中にはいつもと違う荷物が乗っていた。とりあえずパンツとTシャツと靴下とジーパン。もう家には帰れない。それ以外は考えられなかった、家族に合わせる顔がない。頭の中は真っ白のまま仕事に向かった。