私はパパの顔を見る。パパは私の声にならない気持ちを悟ったかのように続けた。

「なみちゃん、自分のことが自分でできないんだよ。すべてにおいてね。ママにも限界があるし、今日のようなことはこれからもっと増えてくると思うんだ」

確かになみちゃんは、六歳の誕生日を迎えても言葉が出てこない。でも今日のことを施設に入れる理由に出してくるのは違うと思った。まるで私のせいみたいじゃないか。

「パパはどうなの?」

一瞬間を置いてパパは答えた。

「専門家に診てもらいながら、なみちゃんらしさが出せるところなんだよ。パパはそこがいいと思う」

答えになってないと思った。私はジンジャーエールを飲みながら目の前に座っている男の人を見た。パパは「何?」というように首をかしげる。私は恥ずかしくなって目をそらす。そして自分はパパの子どもだと確信し落胆した。

家に帰ったらもう一度多面体を作ろうと思った。それも何個も。それを家のそこら中に置いておくのだ。ママはなんて言うのだろう。なみちゃんはそれらを全部つぶすのだろうか? パパは気がつくのだろうか? 私は自分が大切にしているものが本当はなんなのかわからなくなった。

帰りの車の中でパパに「美味しかった?」と聞かれたので「うん」と答えた。

どこかの家の花壇にチューリップが咲いているのが車窓から見える。伸びすぎて首が曲がっているのも何本かある。その家の玄関からお婆さんが出てきてジョーロで水やりを始めた。そして汚れたエプロンのポケットからハサミを取り出すと、その伸びすぎたものをぱちん、ぱちんと切り取り家の中に入っていってしまった。信号が青に変わり車が動き出す。

「パパ」と言いかけてやめた。気がついていないようなのでそのままにしておいた。もう少しでいい子でいる必要もなくなる。 でも、洗濯物は自分で畳もうと思っている。ママの雑な畳み方は本当に許せない。

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