◆Side Rekka
深い、深い暗闇。全てを思い出した様な、全てを忘れてしまったかの様な、不可解な感覚。 真っ暗な筒状の物体の中に逆さまになりながらゆっくりと落ちていく。 深淵に落ちて行きながらも、次第に真っ暗だった背景に幾つもの負の感情が貼りつき、俺に何度も“それ”を見せる。
「……これが、俺? 一体どうなってるんだ?」
何だろう……? 暗くて、深くて……、どうしようもない。不愉快な体験をしながら、それでもしばらくすると落下する先に光源のような一時の光が見えてくる。体が完全にその光にまみれた後、ゆっくりと視界に色が戻ってくる。初めは薄らとぼやけた光景で、それが徐々に広がりを見せ、俺の意識を現実に戻す。
「(……ここ、病院か?)」
目が覚めた場所は病院だった。しかも、いつも来ている市民病院 ベッドに横になり天井を仰いでいるだけでも、今ルナ姉が入院している病院の一室で寝ている事が分かる。 思わず、ピクリと人差し指を動かしてみた。それは何の障害も無く動いた。体は動く。痛みは、ない。
「……何で、ここ?」
ゆっくりと、ご丁寧に肩の辺りまで被せてある布団をずり下げ、体を起こす。すると、自分がまだ学校の制服を着ていることに気付いた。何やらそれには擦った跡や細かい汚れ等が見られ、何かアクシデントかトラブルに巻き込まれた痕跡が……、
「……!!」
記憶がフラッシュバックし、一瞬で目が覚めた。あの惨劇を忘れる訳がない。そう思い、布団を翻し即座にベッドを後にしようとした時、
「……レッカ君、おはよ」
優しそうな、すごく安心する声が聞こえた。その声を聴いた途端、緩やかに、でも、もしかしたら不意にだったかもしれない。声のした方へ振り向くと、その先にはパジャマ姿で来客用の椅子に座り本を読んでいる彼女の姿が目に映った。
「……ルナ……姉?」
夢かと思った。現実と夢の区別がつかなかった。そのまま放心状態になった俺を見て、また口を開ける。
「どうしたの?」
何故「どうしたの?」と言われるのか。俺の顔がおかしいのか、変顔しているのか。自分でも一体今どんな顔をしているのか分からない。
「……ホントに、ルナ姉?」
殆ど無意識に言葉が口から漏れた。