『非現実の幕開け』
この都市で最も大きな組織であるSPHが一般人でもある俺に銃を向けて、それを発射させたことに俺は憤慨し、自身の体に貼りついたそれを引き剥がそうとするが粘着力が強く、すぐに剥がせそうにない。
そうこうしている内にも「バン!」「バン!」と次々に狙われる。
幸いにも自由だった両足を使い俺はアクロバットでもするかのようにそれを避け、両手が縛られた状態でさっき使ったロケット型の噴射口から炎を滾らせ、地面と水平に滑空するようにその場を離れる。
戦線を脱した後「うおおおおおお‼」と、ありったけの力でバンドを引き剥がす。
その瞬間も、やはりこの大きな炎のエンブレムが輝いた。どうやらこの姿では俺は尋常じゃない力を発揮できるらしく、その力を発動する時に、この炎のエンブレムが輝くらしい。さらにそれだけではなく身体能力自体が数段も向上しており、「もしかしたらこのまま飛べるのでは?」と考えてしまう程だ。
遂に憑依生命体を退かし今や俺の目的はたった一つと化していた。俺の頭の中にはルナ姉を救うことが、未だに大きく残っていた。というか、これが俺の本来の目的だ!
即座に院内に入り彼女がいる地点へと、跳ねるように向かう。途中瓦礫が散乱し階段が崩れてしまった箇所は、他に別の道を探すのが面倒でそのまま跳んで上の階へ向かう。そうして、今の自分が出せる最速で彼女がいた元の場所へ辿り着く。
しかし、そこにあったのは瓦礫に埋もれてグッタリとうなだれ意識のない彼女の姿であった。
「!!!」
俺は急いで覆いかぶさる様に無慈悲に積まれた瓦礫を退かし、排除した。だが瓦礫の重量が一定を超えていたことで体が押し潰されてしまったのか、胸の辺りから大量に赤黒い血が出血し、まるで死んでいるようだった。
彼女の血でべっとりと濡れることも構わず抱き起こし、何度も何度も名前を叫ぶが、意識がない。
「何で……、何でこうなるんだよ‼」
床に膝をつけ、瓦礫に拳を叩きつける。
さっきまで意識があったのに……、
頑張って最速で帰ってきたのに……、
憑依生命体を退かせるまでに戦ったのに……、
その後も、普通の人間では出来ないような事を成し遂げ、尋常じゃない速さで帰ってきた。いつもなら出来そうに無いことを今日は幾度もこなした。
なのに、何で……‼
ねぇ、何で? ……ルナ姉?
「嫌だ‼ こんなのは嫌だ! 嫌だよぉ、ルナ姉……‼」
意識のないボロボロの体となった彼女を抱き寄せ、額と額がくっつく位の距離に近づく。今、自分が人間の身体をしていなくても涙を流しているのがはっきりと分かる。
「なぁ、いっつも俺ドジってっけど、俺、さっきはヘマしなかったぜ……。あの憑依生命体と闘って、最速で帰ってきた……。なぁ、見ててくれただろ……?」
自分の中で「ルナ姉が死んだ」という現実を考えられない程に、彼女の存在感が今まで生きる事情に深く関わり過ぎていて、もしそうであっても目の前のそれを受け入れられない。
考えられない。
そんなことはない……。
もし、そうなら、これは夢だ……。