「由布子の絵がな、市民ホールに展示されてるから見に行くんだ。親バカさ」
「へえ、血は争えないな。お前も高校のとき美術展に出ただろ」
「小学生の絵だよ。関係ないだろ」
「いいや、そうとばかりも言えんぞ。そうか美智子も美術部だったな。お前じゃなくて母ちゃんに似たのか」
幼馴染は冷やかし半分に笑って、トラックを走らせていった。助手席に乗った由布子はご機嫌だった。
「父さん、市民ホールまでの道を知ってる?」
「どうかな、忘れたかもしれない。教えてくれるか」
「えっ、どうしよう……」
由布子は本気にして、心配そうな表情をする。そして母さんも来れば良かったのにとポツリと言った。
「何の絵を描いたんだ」
「海の絵」
「由布子は本物の海を知らないだろう」
「想像の海だもん」
「そりゃあすごい。海を想像で描いたのか」
「さかなも船も描いたよ」
「そうか。由布子は本物の海が見たいか?」
「うん、見たい!」
「そうだな、由布子を海へ連れていくぞ」
「約束ね!」
両手を弾んだようにたたいた。由布子の指は細くて長い。爪の横幅が広い。俺の指とそっくりだ。孝介の視線を感じたのか、由布子は孝介のズボンのポケットに右手をスッと滑り込ませた。