運命の出会い
「加藤、それでいったい俺にどうしろと言うつもりだ?」
加藤がニヤリとする。
「この前、高木教授にその娘を紹介された。ものすごい美人で独身だが、何かとても暗い陰のある女だ。圭はああいう女がきっと好みだろうと思う。もし高木教授の娘に会ったとしても、手を出さないようにしてくれよ。問題を起こして、大学病院との契約が駄目になったら俺が困るからな」
圭は余計なことを心配するなとでもいうように笑う。
「高木教授の娘は美人かもしれないが、俺は美人には全く興味がない。どんな才媛でも、美人という人種は頭が空っぽで、話をしてみると中味がないものさ。おまえもよく知っているように、俺はそんなプレイボーイじゃない。問題なんか起こさないよ」
加藤が同意する。
「確かにおまえは見かけと違って変にシャイで、くそ真面目なやつだ。気に入った女がいても、適当に愛しているよとか言って物にできない奴だからな」
圭は
「そうだよ。俺はおまえとは人種が違う」
と言って笑う。加藤が運転する車は大学のキャンパスに入っていき、大学病院の駐車場に止まる。二人は大学病院の最上階にある高木教授の部屋の前に立つ。加藤がそこで部屋の扉をノックして、大きな声を上げる。
「加藤です。今日の講演者を連れて挨拶にまいりました」
すると、部屋の中から女性の助手の声が聞こえてくる。
「加藤さん、お待ちしていました。どうぞ中にお入りください」
加藤は部屋の中に入っていき、高木教授に圭を紹介する。
「高木教授、我が社の研究所から、本日の講演の講師、東山圭を連れてまいりました」
高木教授はにこやかな顔で名刺交換をして、医学界の重鎮とは思えない穏やかな声で話を始める。
「今回の講演をお願いした主任教授の高木です。東山さんですね。最新AIテクノロジーに関する講演、とても楽しみにしています。ここにいる助手が講演会場のホールまでご案内しますので、よろしくお願いいたします」
挨拶の後、高木教授の助手が、二人を地下一階にある講演会場まで連れていく。助手に案内されて入った講演会場は、三百人ほど入れるホールになっており、圭はノートPCを演壇の中央に置かれた講演台の上に置き、ヘッドセットのワイヤレスマイクを頭につける。そのワイヤレスマイクをONにして、広い演壇の端から端まで歩きながら、自分の声が会場に流れることを確認する。