保健師は災害などの健康危機が他府県で発生した時、被災地に派遣され、主に避難所や自宅におられる被災された方々に寄り添い、その健康ニーズを解決するための支援を行う。阪神大震災以降、私は熊本を除いたすべての被災地に派遣保健師として赴き、支援活動をしてきた。

派遣活動には当然、大きなリスクが伴う。発災直後から被災地入りをする道中で、道路が大きくひび割れて陥没し行く手を阻まれたこともあったし、トンネル通過中に余震が起こり細かいコンクリートの粉塵がフロントガラスに降り注いだこともあった。現地活動中には「本震か?」と思うほど大きな余震に再び見舞われるなどとにかく被災地派遣は命がけの任務となる。

平時なら5時間程度で行ける道のりであっても、早朝明けやらぬうちに車で出発して、ようやく現地に到着したのが夜の8時だったというようなことも発災時には決して珍しいことではなく、体力、気力ともにアドレナリン全開、戦闘態勢マックスの状態で臨む必要のある任務となるのだ。

当然、現地では派遣保健師たち自身の健康管理のため宿泊場所も食事時間も確保はされるが、被災地の悲惨な現状を目の当たりにし被災者の方々の喪失感、絶望感に寄り添う活動の中では、保健師たちの業務量は気付かぬうちに体力・気力の限界を超えることも珍しいことではない。

つまり、ランナーズハイのような状態になるのかもしれない。私の場合もご多分に漏れず、いつも派遣時には飲まず食わず、ノンストップで終日動き続けても一向に疲れを感じない、そんなモードに入る。まさに「交感神経亢進の権化」と化すのだ。

近年は派遣保健師たちの健康管理や燃え尽き症候群が問題視された結果、ありがたいことに随分、派遣活動中の勤務環境は整備されるようになってきた。例えば、真夜中近くまで避難所に残って支援活動を行うことはせず、定時になったら事業報告を行って活動終了し宿舎に帰るルールとするなど、勤務管理が派遣先においても徹底されるようになってきた。

けれど私の思いは、できるならずっとノンストップで、私ができることのすべてを全力で限られた派遣期間にやり続けたい、そう思い続けて活動していた。それが良いのか悪いのかわからない。けれど目の前に平穏な日常を一瞬にして災害に奪い去られ、心も身体も傷付き、もがき苦しむ人々がいる、その現実に保健師魂がメラメラと燃え上がり私はいてもたってもいられなくなるのだ。その心根が身体の中で「交感神経の亢進」を瞬時にマックスに完璧に作り上げる体内環境にしてきたのかもしれないと、今更ながらそう思う。