目が覚めた場所は病院。何も覚えていない。

カレンダーを見ると11月、大分長い間眠っていたみたい。右目を怪我していて、顔の右半分が重い。看護師さんが来て、右目の包帯を外す。医師が、私の目に光をあてたが明かりは見えても、他はぼやけて全然見えない。父と母の泣いている声が聞こえてきた。視力検査をしたけど、やっぱり全然見えない。メガネを作ることが決まった。

次の日、母から卒業アルバムには、今まで撮った写真を使うのかと聞かれた。私は母親に、目は見えないけど新しく写真を撮りたいと言った。そして、カメラマンが工夫をしてくれて、赤い明かりを目印に撮影をした。

数日後。

お医者さんと父と母の前で、出来上がったメガネをかけた。視界がぼやけている。だんだん父と母の顔が見えてきて、喜びに泣き崩れた。ベッドの横の棚にはアイドル時代の前川さんと私。「前川さんが持ってきてくれたのよ」と母が言う。

お医者さんが、優しい声で話し始めた。

「みなみちゃんが病院に搬送された時は、命も危うい状況でした。でもよく頑張ったね。これから生きる現実では辛いこともあるかもしれません。でも、今君の前にいるお父さん、お母さんは、あなたが目を覚ますのをずーっと待ってたんだよ。本当によかった」

父と母の方を向くと涙を浮かべ嬉しそうに私を強く抱きしめた。看護師さんがきて手鏡を渡される。ゆっくりと鏡を見る。自分の顔を触りながら、鏡を近づける。

「ぎゃーーーーーーー!」鏡を投げつけた。

その日から私は、鏡を見ることはなくなった。

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