南の島では痛みが治まる
手術後は体から2本のドレーン(体内に貯留した血液、膿などを体外に出すための管)が出ていた。10日後に1本が取れて、そこから4日後に2本目も取れた。そして術後の16日目に抜糸をして退院となった。
退院後、1週間の診察で病理の結果を聞いた。乳房切除の細胞から悪性のものはなかった。しかし、3か所のリンパ節の中には複数の悪性のものがあった。抗がん剤を胃薬とともに飲むことになった。
身体にメスを入れるというのは、術後の身体に色々と変化をもたらす。偏頭痛が起きるようになったり、治っていた喘息が再発、これも身体の変化だと思った。退院後に洗面所の鏡で自身の顔を見て、目の下にハッキリ出たクマが「やつれ顔」となり大きな手術をしたのだと再認識し、身体の変化を見て取れた瞬間だった。
入院、手術を頑張った自分や家族にご褒美として年末に南の島に行った。
これまでもケンさんと行く南の島や海は楽しい思い出ばかりで、何を隠そうケンさんとはダイビングで出会っている。潮風に吹かれるだけで心が元気になれるので冬の日本を脱出して、家族三人できれいな海や色鮮やかな魚と戯れた。
寒い日本では傷も痛んだが、南の島では痛みが治まった。これは気持ちだけの問題ではなく、気温や湿度も関係するものだと私は思う。
術後の受診と検査が月に1回のものが2か月に1回、3か月に1回と間が延びて行く度に安心した。検査の結果を聞く時は受験結果でも聞くような気持ちで、数値が正常範囲内であることを確認するとホッとしたのを覚えている。しかし、だんだんと慣れてしまうのか、少ない休みを病院通いで取ることが悔しくなってくる自分がいて、それは健康になったからこそ「悔しい」なんて感情が出てくるのだと思う。
定年間近となってからは、仕事を休んで高血圧の薬をもらいに行ったり整骨などの身体のメンテナンスに使うことは増えたが、もうこうなっては逆らえない。
薬を飲むことで健康が維持できて好きなことができるのだから、薬を飲み忘れないように気をつけている。ただただ毎日が変わらず過ごせることに感謝の日々だ。