「おお、由布子は海へ行きたいか。由布子の絵は色がきれいだ」
先生の言葉に元気が出て、由布子はますます絵の中に入り込んでいった。
「バカだあ、こいつ。こんなオレンジや緑の魚が海にいるわけねえだろ」
突然後ろの席から声がした。その声にみんながわっと由布子を取り囲んだ。パステルブルーの海の中に、ありったけの色の魚が体に模様をつけて泳いでいる。きれいだあと言う子も、ありえねえと言う子もいて、教室が大騒ぎになった。
「いいじゃないか、由布子は想像の海を描いているんだから」
先生がかばう。ソーゾーじゃない、コートーの海だ……それから船を描いた。白いパステルできっちり塗った。甲板に父さんと母さんと由布子が立っている。
「何だあ、由布子は船に車までつけてるぞ」
みんな大笑いだった。先生も笑った。由布子の耳が真っ赤になった。ちょっと自棄になっている。グレーのパステルで大きな羽を二枚つけた。遼が席を立ってきた。
「面白い船だ。未来の船だね。それに東京の水族館にはこういうきれいな色の魚がホントにいるよ」
由布子は涙が浮かんできて、こぼれないようにじっとしていた。