始業式の日、由布子の学校に転校生が来た。

「江東区から来ました。清水遼です」

ピンと背中を伸ばして言ったので、みんなもピンと背中を伸ばしてしまった。

「江東区は広い川があって、海も近いぞ」

先生の言葉で、由布子の頭の中に、コートークという言葉がスッと入ってきた。父さんのいるところだ。母さんが、手紙の裏を見ながら言ってた。もしかしてこの子、うちの父さんを知っているかな……そう思うと由布子は遼に無関心でいられなくなった。

席は由布子の斜め前。長めのサラサラした髪、半ズボンから出ているまっすぐな足。すぐにみんなと馴染んで、校庭を走り回っている。父さんの暮らす東京はあんな子がいっぱいいるのだろうか。

図工の時間に先生が行ってみたいところの絵を描こうと言った。みんな大喜びだった。前に行った遠くの遊園地、父さんに連れていってもらったサッカー場、デパート、次々元気な声が上がった。

「なんだ、小さいのう、もっと大きな夢はないのか。アメリカとか宇宙旅行とか」

先生は大げさにがっかりして見せた。画用紙が配られると、宇宙船を描く子やゲームの世界を描き始める子も現れた。由布子は何も浮かばなかった。この町以外では、母さんと行った街のデパート。

行ってみたいところは父さんのところ、海が見える……先生が遼の後ろに立って、東京かと聞くと、ハイという返事が聞こえた。東京が好きかと聞かれ、うなずいているのが分かった。

由布子が伸び上がって見ると、ビルと高速道路。その道を色とりどりの自動車が走っている。あんなに車が……由布子は思い立って青いパステルを取り上げた。いつか行きたいところ……