③EGAMI零族
ラムカは、三人に助けてくれた事への感謝を伝え、これから何処へ行くのか聞いた。
カイゼルは、待ってましたと目を輝かせながら答える。
「雲海を航海して、全ての記憶が在ると言う『記憶の森』を目指しているんだ。そこに行き、自分たちの人間の頃の記憶を取り戻す事が俺たちの目的だ。主人が居れば零族狩りから逃げ隠れする必要もなくなり、旅がしやすくなるんだ! だから俺達の主人になってくれないか、頼む!!」
カイゼルは、ラムカに頭を下げた。フランゴだけは本当に頭“だけ”をコクッと下げただけだったが、トラゴスは大きな角が地面に着くくらいに深く下げていた。
ラムカは、よく分からなかったが、主人と言ってもただ一緒にいるだけで良いと言うことらしく、もし自分が主人にならないと零族狩りに捕まると言われ、今は行く宛てもなく、助けてもらった恩も感じたので主人になる事を了承した。
早速、前祝いだとカイゼルが魚船の奥から酒を持って来たが、フランゴが静かに止めた。
「お前が飲みたいだけだろ!」
トラゴスが、ラムカも飲めないんだからと酒を取り上げると、カイゼルが子供のように駄々をこねていたので、ラムカは可笑しくて吹き出すと、一気に緊張が解けたのか笑いが止まらなくなる。
この時、ラムカはこんなに笑ったのはいつぶりだろうと自分で思うほどよく笑った。皆もラムカにつられて笑い始めると、どこからか人の声が聞こえてくる。見るとかなり遠くの方から魚船に乗りこっちに向かって叫んでいる者がいた。どうやら魚船を奪われた店主で、魚船を取り返しに来たようだった。
カイゼルは、慌てて魚船を出航させようと舵を手にするが、魚船は暴れ始める。ラムカは、島で耕運機のカタツムリと会話していたので、同じなら通じるはずと感じ、カイゼルに言った。
「舵から手を放してカイゼル! 私話してみる!」
そう言うとラムカは目を瞑り小声で呟いた。
「どうしたの?」
「……」
しばらく黙っていたが、目を開きラムカが言った。
「どうやら、この魚船はあの店主が嫌いで、もう二度と捕まりたくないそうよ!」
カイゼルはラムカが魚船と会話する能力がある事を目の当たりにする。その後ラムカが舵を取ると、魚船は静かになり、ラムカの言う通りに動き始め、それを見たカイゼルは目を丸くした。
さらに風の流れを読み、雲海の波を滑るように魚船を進める。それを見たフランゴとトラゴスも驚きを隠せなかった。
しばらくして店主が遠く離れ見えなくなると、カイゼルは良い人を主人に出来たと喜び、ラムカにこれからよろしくと握手を交わし、ラムカはただトミが無事でいる事を願いこの場所を後にした。