大鏡(おおかがみ

道長下(みちながした)(くさ)(ぐさ)物語(ものがたり)朝覲(ちょうきん)行幸(ぎょうこう)鳳輦(ほうれん)階下(かいか)に寄せる由来」)

【2】仁明天皇(にんみょうてんのう)

平安時代の頃のお話です。

第五十四代、(にん)明天皇(みょうてんのう)御代(みよ)()(しょう)三年(西暦850年)の時です。

陛下は母である(たい)(こう)皇后(こうごう)がおられる冷泉院(れいぜいいん)にお出掛けになりました。

陛下は太后さまのお望みを受けてから、お屋敷の御殿(ごてん)の階段下から直接、お車に乗ってお帰りになりました。

最初の頃は陛下が冷泉院にお出掛けになる時は必ず歩いて行くのですが、この日は太后さまが陛下の車に乗る姿を見たいと求められました。

陛下は、これができるかどうか、左右の大臣に尋ねました。

大臣は皆、言います。

「可能でございます」

車が動き出すと、陛下は御殿の階段を降りて階段の一番下に降り、太后を見上げながら深々と礼をしてから車にお乗りになられました。

左右の大臣はみんな、心から感動して言いました。

「親を尊敬するということは、こういう陛下の姿をいうのだ。孝行とは陛下のお姿を通して民に広がっていくということは本当のようだ」

陛下のお姿を見て涙を流す人もいました。