第一章
2
力の誇示。
工藤博昭の行動指針。
午後一時。環状八号線沿い、ハンバーガーショップの駐車場。博昭の前に、頭をそり上げた筋骨隆々の男と、腕にタトゥーを入れた無精ひげの男が立っている。
ひとめでアウトローとわかる男たちであったが、二人は子犬のように委縮していた。博昭は全身から凶暴なオーラを発しながら、バニラシェイクを飲んでいる。
「金は?」
博昭は言った。ひどく擦れた声だった。そり頭の男はうつむき加減に、「それがうまく集まらなくて」と答えた。
博昭の顔から表情が消えた。店外スピーカーから、女性歌手の甘ったるい歌声が流れていたが、男たちのまわりの空気は精肉所の保管庫のように凍っていた。
博昭はそり頭の男の顎を右手でつかむと、耳元に口を近づけ、囁くような声でこう言った。
「明日までだ」
そり頭の男は、「は、はい」と小さい声で答えた。
「でも、ヒロさん。骸の奴らが連中を脅しているらしく……」
無精ひげが口を挟んだ。乾いた音がした。無精ひげが右頬を押さえてうずくまった。
「す、すみません」
そり頭の男が謝った。力の誇示。博昭は無精ひげの男の髪をわしづかみにすると、強引にひっぱった。
「うっ」と男が声をあげた。さらにひっぱる。男の体がのけぞる。悲鳴をこらえる男の口を空いている手で塞ぐ。またひっぱる。
ぶちっ。髪の抜ける音がした。博昭は無精ひげの男の両耳をつかんだ。
「削ぐぞ」
博昭の声はどこまでも静かだった。
「す、すみません」
そり頭が謝った。博昭はそり頭の男を見た。
「さらってこい」
そり頭の男は小刻みに頷いた。博昭は荒い息を吐いている無精ひげの男の耳を再度つかんだ。
「骸とつながってる奴らを一人残らずかっさらってこい。誰が渋谷を仕切ってるのかってことを俺が直々に教えてやる。わかったか?」
「は、はい」
無精ひげは涙目になっていた。博昭はハンバーガーを無精ひげの口にねじこむと、鼻っ柱に正拳を叩き込んだ。鈍い音がした。
無精ひげがうめき声を漏らした。鼻からどろりとした液体が滴り落ちる。血と鼻水とマスタード。「人間ハンバーガー」博昭は笑った。
力の誇示。