そう言われてみれば、確かに自分に渡す時に女性は一度視線を花に落とし囁くような小さな声で何か言葉をかけていた気がする。その言葉が何だったのかを考えてみる。いやいやいや、そんなことがあるわけがない。今日初めて会った女性に自分への想いなんてあるはずがない。
また母親の余計な詮索が始まったと思い、「そんなこと言ってカマかけても、もう何も話さないからね」とその会話を中断する。これ以上、女性について母親から問い質されたくないし、女性と彼女のことはそっとしておいて欲しい。
特に彼女の想い出は自分一人の心の中に大切にしまっておきたい。
二階の部屋に急いで逃げようとすると、「玄関に飾るの、それとも部屋に持っていくの。彼女たちはあなたの部屋に行きたいみたいだけど、どうするの」という母親の言葉が追いかけてきた。
「わかった、一緒にいくよ」と玄関に戻り花瓶を抱いて階段を上がり自分の部屋の扉を開いた。
「さあ、ここが君たちの部屋だよ」と花瓶を静かに机の上に置いて、「お母さんの言ったことは本当なの」と尋ねてみると彼女たちがそれに頷いた気がした。
そんなバカな……自分まで母親の魔法にかかってしまったと、つい苦笑いしてしまう。
彼女たちを眺めていて自分で初めて買った花の姿を記念に残しておこうと思い、「綺麗に撮ってあげるから写真撮らせてね」と両手で花を優しく包み込むと、くすぐるように撫でてリラックスさせてから携帯で彼女たちを何枚か撮影した。