二.踊るババア
次の日も果音は、教室で息苦しさを感じた。
(ここは嫌だ。「あの子」が主役だから……)
そう思いながら座っていると、何故か体の調子もだんだん悪くなるようだった。暑くもないのに、次から次へと汗が流れ出す。果音の体はあっという間に、汗でびっしょりになった。果音の様子を見た担任は、慌てて保健室へ行けと促す。今日こそベッドで休もうと、果音は教室を後にした。
保健室は、旧館一階の奥にある。教室がある新館とは違い、旧館は古く、少し埃っぽい匂いがする。果音が保健室のドアをそっとノックすると、
「はーい、どうぞ~」
と元気な声が聞こえた。(いい気なものだ)と果音は思う。
「ハアハア……。先生、苦しい……」
バーバラの目が大きく見開く。
「あら、大変、汗でブラウスがスケスケよ」
(そっちかい!)
バーバラは引き出しから替えのブラウスを素早く出し、果音に渡す。
「カーテン閉めてこれに着替えて。ブラウス洗っちゃうね」
「あっ、はい」
果音が着替えている間も、バーバラは話を続ける。
「山本さんは、タメ語使わないよね。すごいな」
「そんなの普通です」と、果音は不愛想に答える。
「普通じゃないよ。最近、みんなタメ語で話してくるよ。まあ、親しみを感じないこともないのだけど。ちゃんと敬語使えることはすごいことよ。お母さんに感謝だね」
その瞬間、果音の顔が引きつった。
「お母さん」というワードだけは出して欲しくなかったのだ。